コーヒーと僕
幼少期の頃、朝食のために食卓につく時に父がドリップコーヒーを淹れていたのを覚えています。それを見ていて興味を持った私は、ある日のそろばん塾の帰り際にお小遣いで缶コーヒーを買ってみたものの、いかんせん子供の舌には合わずそこから暫く苦手意識を持っていました。高校を卒業する頃になるとだんだんとそういった味も楽しめるようになってはきましたが、中学生の頃から気取った紅茶派だった私はコーヒーとはあまり縁のない暮らしを送り続けていました。そんな私がイタリアを初めて訪れた際に立ち寄ったバールでエスプレッソを頼んだ時、それまで抱いていたコーヒーの印象が一気に覆されました。
イタリアでコーヒーといえば基本的にはエスプレッソです。街のあちこちに個人経営のバール”Bar”があり、スタンドでさっと立ち飲みしていく人もいれば、座ってゆっくりとする人もいます。基本的に観光客向けのお店でなければ1.3€~1.5€程度で美味しいエスプレッソが楽しめます。非常に濃厚でなめらかな舌触りで、気軽に楽しむ事ができます。
そんな風にイタリアではコーヒー文化が盛んなのですが、それはもちろん家庭でも同じです。エスプレッソマシンを持っている人も沢山いますが、もう一つ忘れてはいけないのがビアレッティ社の”モカエキスプレス”です。
モカエキスプレスはマキネッタと言われる直火式のエスプレッソマシンの代表的なモデルです。イタリアではピンからキリまで様々なメーカーがマキネッタを販売していますが、長年愛され続けているモカエキスプレスは絶対的な信頼を得ています。私も今ではほぼ毎日モカエキスプレスを使ってコーヒーを淹れています。コーヒーを淹れるといっても基本的には用意さえしてしまえば待つだけなのでそんなに難しくないのですが、匙加減で味や舌触りが全く違うものになります。今日は本場イタリアで培った個人的におすすめなマキネッタでのコーヒーの淹れ方をご紹介したいと思います。
基本的な使い方
まず、用意するものはマキネッタ。おすすめはやはりモカエキスプレスです。サイズに関しては3カップ用がいろんな楽しみ方ができるのでおすすめです。次にコーヒー豆ですが、細挽きのものを用意してください。私は普段はillyの豆を使っていますが、お好みで大丈夫です。
さて、まずは軟水をタンクの側面の線まで入れます。これより多くても少なくてもダメです。そして、真ん中のカップにコーヒーをしっかり入れます。この時に、コーヒー豆をプレスしないようにしてください。押し付けてしまうと抽出の際の圧力が均等で無くなり、美味しいコーヒーを作ることができません。優しく撫でるように慣らすのがコツです。


そうしたら、1番上の部分(サーバー)を取り付けます。中身をこぼしたり揺らさないように注意しつつ、しっかりと閉めてください。ここまで来たらあとはコンロに置いて火をつけるだけです。もしコンロの大きさが違う場合は一番小さいものの上に、そして火の強さは必ず最弱にしてください。ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて丁寧に温める事がマキネッタで美味しいコーヒーを淹れる秘訣です。
ここで一般的には蓋を閉めておき、抽出が終わる際に空気が溢れ出す音がコポコポと鳴りだして完成となります。このようにして淹れた場合はエスプレッソ用のカップにしっかり3杯淹れる事ができます。もちろんこのままイタリア流に砂糖をがっつり入れて飲んでも美味しいです。ですが、この最後の火にかける工程を少し工夫することによって実は少し違った舌触りと味わいを楽しむ事ができるのです。
オススメの淹れ方
基本的には普通に淹れるのと同じように弱火にかけます。ですが、この時蓋は開けておき、じっくりと観察しましょう。朝の静けさと共に、マキネッタを通して自分と向き合う時間を楽しむのです。

やがてコーヒーが湧き出してくるのがみられます。ここで、サーバーの底の半分と少しがコーヒーで見えなくなった段階で、火を止めます。こうすることによって、ほんの少しゆっくりとコーヒーが抽出されて、よりまろやかで深みのある舌触りに変化します。一つ欠点があるとすれば、抽出できる量が少し減ってしまう事ですが、普通に淹れるのとはまた違った楽しみ方ができます。

このように、コーヒーが沸き始めてから火を止めるタイミングによって味や舌触りに変化をつける事ができるのがマキネッタの面白い点だと思います。今回紹介したのはあくまで私の個人的な好みに基づいていて、たとえばコーヒーが湧き出た瞬間に火を止めると言う人もいます。コンロによって火の強さも微妙に違うと思うので、そこはお好みの加減を探求するのも楽しみの一つになると思います。
コーヒーを楽しんで一息ついたら、マキネッタを綺麗にしたくなりますが、ここで絶対に気をつけなければならないのが、洗剤やスポンジを使ってはいけないという事です。
「え、汚くない?」と思う方もいらっしゃると思います。ですが洗剤などを使ってしまうと、せっかくのコーヒーの油分が馴染まず、マキネッタが育たなくなります。いわゆる鉄鍋などと同じように油膜が形成される事によって、金属臭さが消えてよりコーヒー本来の味を活かす事が出来るようになるのです。ポイントは冷水もしくはぬるま湯で全体的に優しく指で擦る程度に洗う事です。
コーヒーを淹れるのもとても簡単で、手入れもシンプル。それでいて長い年月を共に過ごして行くことが出来るマキネッタ。是非お家でイタリアの朝を体験してみてください。きっとあなたの良き相棒になってくれます。
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