スーツやジャケットといっても、その顔つきは様々ですよね。手仕事感たっぷりのコッテリ系の物もあれば、一見何も特別なことはしてませんが?と言ったような澄まし顔のものもあったり、柔らかそうに見えたり、がっしりと見えたり。そしてそう言った個性が、着る人のキャラクターをより引き立てるのだと思います。僕は残念ながらというか、紳士ではなくただの洋服好きなので、ある程度色んな物を試してみたくなります。しかしそれでも、色々着ていると好みというのは必然的に現れてきます。そして、僕のワードローブの中で比較的数が多いのが”Belvest”のものになります。
イタリア古着ディグ日記 #7 Belvest(ベルベスト) テーラードジャケット
“Belvest”の魅力的なテーラーリング

僕が語る必要があるのかどうかはさておき、一応簡単に説明しておきます。Belvestは1964年にイタリアのパドヴァという街で創業しました。当初からその違いテーラーリング技術を認められ、HERMESをはじめ数多くのメゾンのOEMとして、洋服作りを手掛けてきました。
Belvestは、何と言っても「普通に見える」のが逆に最大の特徴だと思っています。他のブランドのジャケットなどをみてみると、それぞれから何かしらの主張を感じたりするものですが、Belvestは非常にシンプルで、おそらく「僕のジャケット、Belvestやねん!」と言われないと気づかないかもしれません。所謂イタリア服において語られがちな「わかりやすい色気」のようなものはあまり感じません。ですが、個人的にはそれが心地よくも感じます。僕はあまり外交的な性格でもないですし、正直ひっそりとしていたい。でも少しだけ主張もしたい。といった、所謂めんどくさいタイプの人間だと思います。
そんな僕にとって、Belvestのスーツやジャケットは、とても心地が良いのです。わかりやすくはないけど、よく見てみると雰囲気が伝わってくる。そんなところが気に入っています。

色々発見していく中で、スーツを2着、ジャケットを5着、それぞれ入手する事ができました。これを多いと考えるか、少ないと考えるかは、人によると思います。ちなみに、僕の中の常識氏は「これ以上服を増やさないで!」と叫んでいますが、それと同時に僕の中の厄介服オタ氏は「まだだ、足りぬ!」と叫んでいて、残念ながら僕にはどうしようもありません。洋服愛好家あるあるだと思いますが、いつもいつも買うか買わないか葛藤して、最後には結局買ってしまうという悪循環に陥ってしまっているのです。もちろん、これはBelvestに限った話ではありませんがね。
“Belvest”と他のブランドと比較してどう?
先程お話しした通り、僕の中ではBelvestが素晴らしいクオリティを持っているという事実は変わりませんし、僕にとってのお気に入りであるというのは間違いありません。とはいえ、イタリアだけでも数多のブランドが存在しており、Belvestだけが良いジャケットを作ってる訳ではありません。人間の悲しい性で、どうしても2つ以上の物があると、比較してしまいます。勿論、こういったブランドを比較する場合、闇雲に勝敗を決めたいのではなく、ただ違いを再確認したいという場合が多いとは思います。
ISAIA(イザイア)と Belvest(ベルベスト) 比べてみる?
Brioni(ブリオーニ)とBelvest(ベルベスト) 比較してみた
各ブランドとの比較に関する詳細は上記のリンク先の記事をそれぞれ読んでいただけますと幸いですが、ざっくりと全体的に見たときに、Belvestからどのような印象を受けるかをアンコンジャケットと構築なジャケット、それぞれお話ししていきたいと思います。
アンコンジャケットの王女 “JACKET IN THE BOX”

さて、今日のBelvestで最も有名なモデルといえばこのJACKET IN THE BOXだと思います。Senza Interno(センツァインテルノ)なんて紹介のされ方をしていますが、極力まで芯地などの副資材を省いた、軽く薄く作られたジャケットです。(ちなみに王女と書いてるのはイタリア語でジャケットを意味するGiaccaが女性名詞だからで、特に意味はありません)
今やアンコンジャケットといえば、殆どのブランドが提案していて、中には専業のブランドなどもあります。干梅も素人ながら、色んなジャケットを試してみました。
まず、軽さに関してはJACKET IN THE BOXは圧倒的だと思います。例えば、LARDINIやTagliatoreと比べると一段階さらに軽い気がしますし、ナポリのブランドであるISAIAのアンコンタイプなどと比べても軽いです。まるで羽のようです。
ただ、軽ければ良いのかというのは正直わかりません。LARDINIやTagliatoreも、冷静に考えたら充分着心地はいいと思いますし。僕の持っている中で1番カジュアルなCIRCOLO 1918のジャケットなんかは、もはやスウェット生地なので、家でごろごろながら着ても大丈夫というタフさも備えていたりします。
では、何がJACKET IN THE BOXを特別にしてあるのかというと、その醸し出すエレガントさに尽きると思います。他のアンコンジャケットは軽くて着やすくて、着心地という面ではさほど変わらないかもしれませんが、ここまで上品な雰囲気を保っているのはBelvestのみかもしれません。素材の選定と仕立ての細やかさなどが、ほんの少し違うだけで、最終的な結果はかなり違うものになります。これに関しては、決して他のブランドが悪いわけではありません。価格帯の違いもありますし、比べるのがナンセンスとも言えるかもしれません。ただ、JACKET IN THE BOXにはそういった魅力があるとは思います。
構築的なジャケットの場合は?

さて、構築的なジャケットも勿論素晴らしい作りをしています。手に持った時はとてもずっしりする総毛芯のこちらのスーツジャケットも、着ると首から肩に上手く乗っかり、実際の着心地はとても良いです。ここでアンコンジャケットと軽さを比べるのは野暮だと思いますし、正直1日着ていても何か気になる(例えば肩がこったり)ほどの問題が起きるわけではありません。
そして、個人的にはアンコンジャケットより、構築的なジャケットの方が他のブランドと比べた時に着心地に差が出ると思います。アームホールをはじめ、ジャケット全体の体への吸い付き具合は、やはり一味違います。
個人的な趣味としては、アンコンなジャケットよりも、クラシックにガチガチ作られたジャケットの方が好みなので、ベルベストの総毛芯のジャケットはとても好きです。そして、僕の中では「ジャケットの着心地の良し悪し」というベクトルにおける基準点になっています。
Belvestに欠点はないの?
BelvestとGoogle検索すると、基本的にはベタ褒めしているショップのサイトばかりが出てきますよね。勿論商売ですし、良いことばかり書くのもわかります。そして、その殆どが間違ってないとも思います。ただ、あくまでど素人の、本来判断するべき立場にいないこの僕が、独断と偏見のみで意見を述べる場合は話が違ってきます。
大前提として、僕はBelvestのスーツやジャケットは好きですし、今後も着続けるし集め続けると思います。そして、これから述べる内容はあくまで「選ぶ人によっては欠点になりうる」程度の事でしかないとも思います。ですが、好き放題言わせて頂くことにします。
洋服そのものが助けてはくれない
?
という文字が浮かんでいる方もいるかもしれませんが、これが最大の特徴だと思います。先ほどもお伝えした通り、他のブランドは多かれ少なかれ「アイテム自体の主張」があるのに対して、Belvestのジャケットは至極普通に見えます。
僕の個人的な意見ですが、例えばもし着用者にすでに強烈な個性がある場合、Belvestはそこにエレガンスを加えてくれますが、このジャケットで何かを主張するということは難しいと思うのです。つまり、スタイリングを組む際の主役に良くも悪くもし辛い気がします。
勿論その方が良い場面もたくさんあります。例えば「そういえばあの人ちょっとエレガントだったね」と思われたい場合はいい選択かもしれません。ですが、例えばもし「このジャケットでワイの印象の全てを変えたるんや!」的なマインドでBelvestを選ぶと、実際他の人にはあまり印象に残らなかったりと、想像と違った結果になると思います。
マシンメイドの限界
「それは言っちゃいかん!」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが「Belvestはマシンメイド最高峰!」という事は、逆にいうと「マシンメイドの限界を知る」ということに繋がります。
先ほども述べた通り、基本的には着心地にはなんの文句もありません。全体的に素晴らしい仕上がりになっていると思います。ですが同時に「基準点」となっていると申した通り、上には上があるということです。例えばBrioniは似たような顔つきをしていますが、さらに着心地がいいです。Attoliniはさらに吸い付くような着心地です。
もっといえば、イタリアでは名もなきサルトリアが手がけたであろうビスポークのジャケットが、古着市場に流れていたりします。サイズに関しては完全にガチャガチャみたいなもんですが、ピッタリハマると「なんじゃこりゃ!」というほど着心地が良かったりします。
「普通の洋服として最高の着心地」であるかもしれませんが、それは「最高の洋服としては普通の着心地」であるということなのです。
ただ一つフォローを入れておくと、一体どこの誰がAttoliniしか着ないような生活をしているのでしょうか?そのような極限られた殿上人からすると、Belvestの着心地は普通かもしれませんが、僕も含めて殆どの人にとって、Belvestの着心地が素晴らしい事には変わらないと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?最初にも述べたように、僕はあくまでズブのど素人なので、プロの方々のように紹介する事は難しいです。それでも、なにかこの記事が皆様の参考になれば嬉しいです。良いところも気になるところもお話ししましたが。Belvestはとてもよいファクトリーだと個人的には思っています。もし古着で見つけたら勿論即買いですが、そうでなくても機会がありましたら、一度袖を通してみることをお勧めいたします。
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