Ciro Paone cucito per TIE YOUR TIE | 至高の仕立てが生む寡黙な価値

当ブログで一番長く安定的に続いている連載として古着ディグ日記があります。そちらでは「思わぬ発見である」という条件の元に紹介するアイテムを選定しています。しかし、イタリアで生活をしている中で、とにかく品質を極めたようなアイテムに触れる機会というのがたくさんあります。そういったアイテムは語らずとも自然とその存在感を放っている。つまり”寡黙な価値”がそこにあるんじゃないかと感じています。そこで、ディグ日記とは別で、洋服に限らずとにかく品質を極めた名品を紹介する連載を、不定期で始めていきたいと考えています。記念すべき第一回は究極の既製服とはなにか?という事を体現している、Ciro Paone cucito per TIE YOUR TIEのスーツをご紹介いたします。

Ciro Paone cucito per TIE YOUR TIE Suit

Kitonの特別なライン Ciro paone cucito per Tie Your Tieのスーツ。

クラシックな洋服が好きな方で、この二つの名前を知らない人はいないかと思います。Ciro Paone氏はナポリの名門であるKitonを立ち上げ、総帥として同ブランドを世界一の既製服ブランドの一角に育て上げました。また、TIE YOUR TIEはフィレンツェで創業した名セレクトショップとして知られており、店主のFranco Minucci氏の並々ならぬ目利きによって選ばれた最高品質かつセンスの良いアイテムが揃っていた名店です。そんな業界の中でも一際注目されていた二人はもちろんお互いをリスペクトしており、Kitonが唯一創始者のCiro Paoneネームのタグがついた洋服を卸していたのがTIE YOUR TIEなのです。

Kitonの特別なライン Ciro paone cucito per Tie Your Tieのスーツ。 ロゴの様子

Franco氏は徹底的な美意識で知られていた方ですが、このスーツに使われている生地は春夏向けのウール素材なのですが、絶妙な深いブルーの色合いと適度なシャリ感で、まさに極上の物です。そして何より、仕立てが非常に軽いです。芯材も肩パッドも存在を感じるのですが、絶妙にしなやかで、着ると雲に包まれたかのような感触です。たとえば地面に丸めておいて見ても全く抵抗なく、そして持ち上げると元の姿に戻る。どの洋服とも全く違う、ハンドメイドだからこそなせる絶妙な甘さと、最上級の素材使いによってのみ表せる特別な感覚です。もちろんそれはポケットやボタンホールといった、目につくディテールにも施されています。これらは全て、決して周りに対して誇示出来るようなわかりやすい贅沢ではありません。着ている本人のみが実感することができ、その沈黙こそが本当の意味での上質だと確信しています。

Kitonの特別なライン Ciro paone cucito per Tie Your Tieのスーツ。 折り畳んだ様子。柔らかさの象徴である。
Kitonの特別なライン Ciro paone cucito per Tie Your Tieのスーツ。 胸ポケットの様子。
Kitonの特別なライン Ciro paone cucito per Tie Your Tieのスーツ。 ボタンホールなどの様子。

トラウザーズは2プリーツで、イタリアらしいアウトプリーツになっています。フロントはボタンフライになっており、あくまでサルトリアルなディテールが用いられています。

Kitonの特別なライン Ciro paone cucito per Tie Your Tieのスーツ。 トラウザーズの様子。

ブランドのロゴが前に出ているわけでもなく、一見地味に見えなくもありません。ですが、実際に生で見ると。遠くからでもその存在感は一目瞭然です。それは、細部まで徹底された技術力が生み出す美しさであり、他の追従を許さない絶対的な自信の表れでもあります。究極という概念は方向性によって様々ですが、このスーツは究極の既製服とは何か?という事を教えてくれます。

残念ながら近年お二人はこの世を去られました。いまはもうその審美眼の先を直接見ることは叶いません。ですが彼らが遺した作品には、時を超えて伝わる美意識があります。上質という言葉の意味を、改めて考えさせてくれる一着です。

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