テーラードジャケットの素材の善し悪しというのは、そのジャケットが目指す方向性によって変わってくるので一概にまとめることはできませんが、エレガンスという事を考える際に真っ先に思い浮かぶのがカシミヤという素材かと思います。
内モンゴルを中心とした険しい山岳地帯にのみ生息するカシミヤヤギという動物が持つ一部の毛の事を指すカシミヤは、一頭一頭から熊手のような道具を用いて人力で梳いてとる必要があり、ようやく取れたと思ったら200グラム程にしかならないという、なんとも手間暇のかかる希少性の高い素材ですが、その繊維の細さから非常に滑らかな触感を持っており、また色で染めた際には鮮やかに発色するという特性を持っています。勿論カシミヤにも程度の違いがありますが、高品質のカシミヤのみで織られた生地は、他の生地では表せない極上の美しさがあります。そんなカシミヤはニットやマフラーなどにも勿論使われますが、当然テーラードジャケットを仕立てる為の素材としても扱われます。

僕自身もカシミヤジャケットは大好きで、梳毛紡毛合わせていくつか所有しています。とはいっても、勿論カシミヤの物しか着ない訳ではなく、あくまでTPOに応じて色んな素材のジャケットを着用します。ですが特に冬場の日、ここぞという時はカシミヤを手に取りたくなります。極上のカシミヤにはやはりそれだけの魔力があります。別にカシミヤだからコーディネートの方法が変わるという訳でもありませんが、やはりなんといってもジャケットはコーディネートを組む際に中心となりがちなので、そこに上品な素材を用いるとなんとなく全体の雰囲気が上品になる気がします。
カシミヤジャケットの良い点

カシミヤジャケットの良い点はなんと言っても美しさと滑らかさ、そしてそれらが生み出す着心地につきます。繊維が細いため上品な光沢を放っており、品格を漂わせてくれます。そして実は機能性もピカイチです。例えば梳毛のウールなどは実は吸湿性に優れているので、春夏の湿気漂う気候においても非常に快適なのですが、梳毛のカシミヤはさらにその一歩上を歩んでいます。もちろん何も着ないのが一番涼しいのは確かですが、ジャケットを着なければいけないシーンも多々あるかと思います。そんな時に、カシミヤは軽やかながらも快適な着心地を持っています。

逆に定番のフランネルや、カシミヤで織られたツイードなどの冬素材はウールのそれらよりもさらに軽く、そして暖かさを保ってくれます。そして何より触れた時の柔らかさは病みつきですし、極上とは何かという事を教えてくれる素材でもあります。

カシミヤジャケットの欠点
美しいカシミヤジャケットにも欠点がいくつかあります。繊維が細いということはつまり、耐久性に乏しいということに繋がります。例えば、同じ獣毛でも、太いウールでがっしりと織られたツイードなんかであれば、雨に濡れようが満員電車で擦れようが、少々の荒事では影響を受けませんが、カシミヤはそれをモロに受けます。雨に濡れてあろう事かゴシゴシ擦られた日には、悲しい結末が待っています。
また、他の素材よりも特段虫に食われやすいです。やつらは一番美味しいものから食べていくのです。つまり、普段のケアが非常に重要ということです。家に帰った後適当にその辺にかけておいて大丈夫なジャケットが欲しい場合は、カシミヤという素材はは選択肢には入りません。何においてもそうですが、美を保つにはそれだけの努力が欠かせないのです。
どうやってケアするの?
とは言っても、別に変なケアが必要というわけでもありません。毎日ガシガシ着たおすという荒々しい付き合い方はなるべく避け、着用後は柔らかい馬毛、もしくはより柔らかい獣毛のブラシで、優しく均一に毛並みを整えてあげるのです。個人的な感覚では、梳毛の物は比較的ケアは容易です。ぶっちゃけ他のウールのジャケットとあまり変わらないのではないかと思います。デリケートすぎて少し…という意見がある事も勿論わかりますが、特別な日に向けて一着持っておくと、何より気分が上がります。そして、カシミヤジャケットは私たち自身の所作にも影響を与え、今までよりもほんの少しだけエレガントになれるかも知れません。
勿論、近年の素材の価格高騰もあり、良いカシミヤジャケットを手に入れることは簡単ではなくなりました。しかし、カシミヤジャケットでしか表せない価値がそこにはあります。もし挑戦してみたいと思う方は、是非仕立ての良いカシミヤジャケットを一着お持ちになってみてください。新品はもちろん、たとえ古着でも状態の良い物を見つける事は十分可能です。そしてそれを愛用していくうちに、本当のカシミヤの良さを実感する事ができると思います。
いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ頂けましたら嬉しいです。他にも色々な生地を書いておりますので、暇つぶしにお読みいただけますと幸いです。


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