“ラヴェル“のダンディズムから見える「日常の美学」

皆様はクラシック音楽の作曲家というと誰をイメージしますか?いろいろあると思いますが、やはり1番最初に思い浮かぶのは、バッハやモーツァルトではないでしょうか。彼らはまだフランス革命が起きる前の、まさに貴族社会最盛期の時代を生きており、そのファッションスタイルや生活様式も、なんだか今とかけ離れた古の時代といった印象を受けます。ですが、クラシックと一括りにされている音楽の歴史は、何百年にもわたる非常に長いものなのです。所謂、クラシックの中でも近現代と呼ばれるカテゴリの作曲家達が生きていたのは、今からほんの100年ほど前か、あるいはそれ以降だったりします。1900年代初頭というと、所謂メンズクラシックファッションのベースが出来上がってきた時代でもありますよね。そして、社会がグローバル化の兆しを見せ始めた瞬間でもありました。そんな中で、今回は音楽に限らず生活のありとあらゆる点において、その美意識を遺憾なく発揮していたフランスの作曲家”モーリス ラヴェル”のスタイルを今改めて見返して、学びたいと思います。

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モーリス ラヴェル

最も有名な“ラヴェル”の写真
最も有名な彼の写真。よく見るとストライプスーツを着こなしている。

ラヴェルは1875年にフランス南西部のバスク地方に生まれました。父はスイス人の実業家で、母はマドリード育ちのバスク人でした。生後まもなく家族でパリに移り住みしたが、母の出身地であるバスク地方の文化に親しみを感じており、彼の作品のいくつかはその影響を受けています。

彼は特に、作曲の中でもオーケストレーションにおいて非常に高く評価された作曲家で、その緻密な書法からは非常に独特の美学を感じ取ることができます。ちなみに、僕のお気に入りは”ダフニスとクロエ”という彼が1912 年に作曲したバレエ音楽です。混声合唱を含む壮大なオーケストレーションが非常に美しいです。かなり長いのですが、組曲版ではなく、オリジナルの全曲を通して聴くのをおすすめします。

“ラヴェル”とダンディズム

“ラヴェル”
ストライプのスリーピーススーツにシルクのシャツ、ストライプのネクタイを合わせ、豪快にチーフを挿す様子。

さて、そんなラヴェルですが、私生活においてもその美意識は遺憾なく発揮されていました。身長157センチと小柄だった彼ですが、ネクタイからスーツ、鞄などの小物に至るまで、身につけるものに関してはそれはそれはうるさかったそうです。彼が演奏旅行をする際、衣装や普段着を詰め込んだトランクは常人よりもはるかに多かったとか。スパイスの効いた濃い味の料理を好み、フルボディの濃厚なワインを飲み、フランス人らしくタバコを愛したラヴェルでしたが、その物腰は常にエレガントで、公の場では常に伊達男として振る舞うことを好んでいました。

スリーピーススーツを着こなす“ラヴェル”

こちらの写真ではチェック柄のダブルのジレを挟むスリーピーススーツに、水玉模様のネクタイ、チーフを挿しています。もちろん、当時はまだまだオーダーメイドが主流だったと思いますが、今の時代から考えてみても、サイジングが本当に綺麗ですよね。

“ラヴェル”

こちらの写真は無地のスーツとネクタイと少しフォーマルな装いをしていますが、チーフの挿し方に洒落っ気が見えますよね。そして、撫で付けられた白髪の混じったヘアスタイルにもこだわっていました。

人に囲まれた“ラヴェル”

こちらはタキシードを着用する姿です。ラペルに本物の花をつけていたりと、洒落っ気が溢れ出ています。彼の音楽とスタイルは、いつも社交の場を華やかに仕立て上げました。

“ラヴェル”の私生活

ファッションだけにとどまらず、彼の美意識は彼の家からも感じ取ることができます。彼は46歳の時に、パリ郊外のモンフォール ラモリという田舎に家を買うのですが、壁や床のデザインは勿論、そこに飾る浮世絵なども含む絵画や、食器類に至るまでこだわり抜かれた、シックかつモダンな雰囲気の内装は勿論、庭の植物なども全て自分がパリで見つけたものを買い揃え、彼独特のセンスで日本風庭園を作っていました。そして、当時ヨーロッパでは珍しかったシャム猫を飼っており、こよなく愛していました。かと思いきや、当時の最新の家電製品などをアメリカから輸入したりと、新しい物好きの側面も持ち合わせていたりしました。そして、彼を訪れる人々と共に、頻繁にパーティをしていたそうです(ちなみに筆者は、ヨーロッパに住み始めてからラヴェルがこだわっていたようなインテリアを再現したくて、蚤の市に通い詰めています)。

ちなみに彼の家は今でもミュージアムとして残されているので、パリを訪れる際はぜひ足を運んでみてください。

Ville de Montfort l’Amaury Maurice Ravel’s museum house

まとめ

いかがでしたでしょうか。クラシックの作曲家ということで、大昔の人物のような気もしがしますが、たとえば同じフランスの有名なファッションアイコンであるゲンズブールが生まれた時、ラヴェルはまだバリバリ生きていました。そう考えてみるとそこまで昔の話でもないような気がしますよね。最後にもう一度お伝えしますが、ぜひ彼の作品を聞いてみてください。きっとその美意識がもつ表情を感じ取ることができるでしょう。

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