“クラシックコンサート”におけるドレスコードについての是非を問う

先月ネットニュースを見ていると、個人的にクラシックのコンサートに関する興味深い記事を見つけました。

Rai News.it Alla Scala torna il dress code: niente canotte, pantaloncini e infradito(イタリア公共放送局 ミラノのスカラ座でドレスコードが復活。タンクトップ、ショートパンツ、ビーチサンダルは禁止です)

今日ミラノのTeatro alla Scala(スカラ座)はイタリアはもちろん、世界において最も権威のあるオペラ、クラシック音楽のコンサートホールの一つです。1778年開館と古い歴史を持っており、イタリアの代表的な作曲家であるベッリーニのノルマや、プッチーニの蝶々夫人などもスカラ座で初演が行われました。

近年特にスカラ座はドレスコードを指定していなかったのですが、先月からタイトルのように、タンクトップのTシャツ、ショートパンツ、ビーチサンダルなどを着用している場合、入場を禁止されるどころか、なんとチケットの払い戻しさえも受け付けないとの事です。

これについては大変多くの人が賛否を唱えていました。

「ただでさえ閉鎖的なのにこれ以上敷居を上げてどうする?」

「伝統的なスカラ座でのオペラ公演、身だしなみを整えるのは当然」

何事にも賛否両論あるのは世の常ですが、僕の個人的な意見を述べると「あり」だと思っています。これについて、いくつか理由を述べていきたいと思います。

1.スカラ座は「気軽」ではない

Teatro alla Scala
ミラノのスカラ座。"クラシックコンサート"において、最も重要な劇場の一つ。
ドレスコードではないが、服装に関する規制を作った。
ミラノ スカラ座

Teatro alla Scala 公式サイト

反対意見の中に「服装まで指定したら、観客は気軽に見にいけない」というものがありますが、これは主語を「クラシックコンサート」と考えると理解できますが、ことスカラ座の公演に関しては当てはまらないと思います。

これは独断と偏見ですが、そもそもスカラ座にオペラを見に行くような人は「気軽さ」なんて求めていないと思います。

スカラ座の公演のチケットは、演目や席のカテゴリによって値段が違います。最もポピュラーなオペラ公演だと、1番高い席は200€~250€ほど、No Visibilitàなどと書かれているステージが見づらい安い席でさえ50€以上したりと、かなり高級志向です。

(もちろんスカラ座にはガレリア席といって、私のような学生などに向けた「ほとんどステージは見えないけど音楽は聴こえる席」があり、それらのチケットはとても安いです。)

ガレリアはあくまでガレリアなので除外して考えると、スカラ座はコンサートホールの中でも指折りの価格設定となっています。

正直なところ、一般人が「今日夜ちょっと暇だから、オペラ見にスカラ座にでも行こっかな」みたいな感じで行ける金額ではありませんよね。その為、スカラ座の話をする際に「気軽さ」という概念を議題に挙げるのはそもそも論点がずれていると思うのです。

2.ミラノという街の現状

ミラノ大聖堂 クラシックコンサートのドレスコードとは関係ない。
ミラノ大聖堂

ミラノはイタリアの経済の中心地であるとともに、イタリアで最も観光客が訪れる街の一つでもあります。イタリアではオーバーツーリズムが問題視されていますが、ミラノも例外ではありません。特に夏場は街を闊歩する人々は非常にカジュアルな服装をしています。

別にカジュアルな服装をしていることが悪いことではないです。もちろん僕もスーパーなんかにいく場合、堂々と半袖短パンで街を闊歩します。ただ、スカラ座的にはあまりそのような格好で来てほしくないようです。

記事の本文を読んでみると

Il divieto di canotta ad esempio non impedisce di entrare alle signore con bluse o abiti senza maniche e quello per le infradito non intende lasciar fuori le spettatrici giapponesi con kimono e calzature tradizionali. “La Direzione invita il pubblico a scegliere un abbigliamento consono al decoro del Teatro, nel rispetto del Teatro stesso e degli altri spettatori. Non sono ammessi all’interno del Teatro spettatori che indossino canottiere o pantaloni corti; in questo caso i biglietti non sono rimborsabili” si legge sul sito. “Rai news.itより”

と書かれているように、この規則は何もブラックタイを強制するものではなく、あくまで来場の際には最低限のエレガンスを意識して欲しいという事です。

変な話「宿泊するという体験」をするいう点は同じでもアパホテルと帝国ホテルでは訪れる際の意識が変わりますよね。それと同じ話で「クラシックコンサートを聴く」という体験は同じでも市民センターとスカラ座で意識の違いが多少生まれるということです。

TPPOなんていう言葉が定着して久しいですが、要はシチュエーションを理解して、派手にカジュアルな格好さえしていなければ大丈夫だという事です。

3.クラシック音楽業界を取り巻く現状について

カターニャ大聖堂内部のベッリーニの墓
"クラシックコンサート"でも広く演奏されるノルマなどを作曲している
カターニャ大聖堂 ベッリーニの墓

最後に「服装を指定することによって敷居が上がるのか」という話についてです。

多くの伝統産業が苦しんでいるように、クラシック音楽業界も若い人の関心が減っているという深刻な問題を抱えています。業界全体があの手この手と若い顧客を呼び込もうと色んな工夫をこらしていますが、残念ながらまだまだ根本的や改善には至っていません。

そんな中「若い人にとってこういったルールやイメージは敷居が高く感じるんじゃないか」という意見があります。

個人的には「敷居が上がるという点について」は同意します。そういった形式ばった、閉鎖的な雰囲気に対して、人を敷居が高く感じる傾向があると思います。

ただ、これに関しては別に若い人に限った話ではないと思います。0歳児であろうと80歳のシニアであろうと、普段から慣れ親しんでいないものに対して敷居を感じるのは当然のことであって、ましてやそれがある種の「格式」のような物を求めていると考えると、その意識は加速する一方でしょう。

「クラシックコンサート」という体験そのものの敷居を上げる事には僕は反対します。全ての芸術は全ての人に平等であるべきだと信じています。ただ、混同されがちなのですが、服装のエチケットというのは「クラシックンサート」そのものに対してではなく、「そこにいる他の観客との空気感の問題」であるという事を理解しなければならないと思います。だからこそ、スカラ座の話をまるで全てのコンサートホールの話のように語るのは違うと思うわけです。

僕はカジュアルなクラシックコンサートであればジーンズで伺うこともあります。そこは別に僕にとって「畏まるべき場」ではないからです。逆に格式を求められそうな会場に伺う時は、もう少しフォーマルな格好をします。でも、それと「コンサートを楽しむ」という事はまた違う軸にあります。先ほどのホテルの話と同じですね。

つまり、若者の興味があまり向いていないことに対して会場の敷居の話を掲げるのは、間違っていないけど根本的にはズレてると思うのです。「なんか洒落た写真撮ってみたいから、EOS R3買ってみようかな」とはならないですし、「クラシックちょっとだけ聴いてみたいから、とりあえずスカラ座にでも行こっかな」とはならないですよね。

何事においても物事には段階があり、ハイエンドの話をビギナーの基準のように話すのは無理があると思うのです。そして、ビギナーを増やすには全く違うアプローチが必要だと考えています(何かいい方法あれば教えてください)

まとめ

以上のことから、スカラ座のようなハイエンドなコンサートホールがこういった基礎的なルールを設けるのは「あり」だと個人的には思います。

今回はスカラ座のニュースをきっかけに、クラシックコンサートのドレスコードについての個人的な考えを述べてみました。色んな方の意見があると思いますので、もしよろしければコメントなどでもお聞かせいただけると嬉しいです。また、ルールがなくてもオシャレしてみたい!という方に向けて“クラシックコンサート”のメンズファッション完全ガイド|上品に魅せられるおすすめコーデ10選という記事も書いてますので、合わせて読んでいただけますと幸いです。

もし気に入ったらシェアで応援してください!

Spotlight

Spotlight

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *