皆様こんにちは。革靴を選ぶ時、普通は歩きやすさや履き心地、さまざまな服装に合わせられる汎用性などを考えます。しかし世の中には、そうした日常的な実用性から、ほとんど切り離された靴も存在します。
大きく開いた履き口。光を反射する黒いエナメル。そして甲に載せられたリボン。今回は、日常生活ではまず履く機会がない一方、舞台の上では代わりの利かない一足。REGALのオペラパンプスを紹介させていただきます。
REGAL Opera Pumps

REGALは1880年にアメリカで誕生し、1961年に日本へ導入された靴ブランドです。当時の日本製靴株式会社がアメリカのブラウン社と技術導入契約を結び、日本国内でREGALブランドの紳士靴を生産、販売するようになりました。1990年には商標権を取得し、社名も現在の株式会社リーガルコーポレーションへ変更されています。
今回紹介するモデルは、牛革にエナメル加工を施した黒のオペラパンプスです。甲には正統派のサテンリボンが配され、製法はセミマッケイ式。合成ゴムのソールを備えた日本製のモデルになります。
僕が所有しているものは24.5cmです。オペラパンプスという極めて用途の限られた靴でありながら、現在もREGALの定番商品として販売されていることには少し驚かされます。
オペラパンプスという正装靴
オペラパンプスは、甲が大きく開いた履き口と、リボン飾りを特徴とする男性用の正装靴です。その原型は18世紀の宮廷で履かれていたコートシューズにあり、現在では伝統的に燕尾服やタキシードと合わせる夜の礼装用靴として残っています。
名前の通り、オペラの観劇や夜のパーティーといった華やかな場で履かれてきた靴です。黒いエナメルとリボンという組み合わせは、普通のスーツに合わせるには明らかに過剰ですが、燕尾服やタキシードの足下では不思議なほど自然に収まります。
現在では、同じ夜の正装でもエナメルの紐靴を選ぶ方が多く、オペラパンプスを実際に見かける機会はほとんどありません。男性用の靴でありながら“パンプス”という名前を残していることも含め、過去の正装文化がほぼそのままの形で残されたような存在です。
硬く、実用的ではない
実際の履き心地について言えば、この靴はかなり硬く感じます。
セミマッケイ製法というと柔らかく軽い履き心地を想像しますが、製法だけで靴の感触が決まるわけではありません。エナメル加工されたアッパーには独特の硬さがあり、足を入れた瞬間から柔らかく馴染むような靴ではありません。
そもそも頻繁に履く靴ではないため、時間をかけて履き慣らす機会もほとんどありません。甲を調節する紐もなく、履き口が大きく開いているため、フィッティングについては足の形との相性がかなり大きいと思います。
長時間歩くための靴として考えると、実用性はほとんどありません。合わせられる服装も極端に限られており、現代の生活において、これほど用途の狭い靴も珍しいでしょう。
ピアノのペダルは踏みやすい
しかし、その評価は舞台に上がると変わります。
オペラパンプスは靴全体がコンパクトで、紐や大きな装飾が足の動きを邪魔しません。実際にピアノを弾いてみるとペダルが踏みやすく、足下の操作を細かく行う本番靴としては使いやすい靴です。
ピアニストが舞台上で必要とするのは、何時間も街を歩ける耐久性ではありません。椅子に座った状態で、ペダルとの接触を正確に感じられることの方が重要になります。日常生活では実用性に欠ける形が、舞台ではむしろ利点になるわけです。
黒いエナメルは照明の下で美しく光り、燕尾服やタキシードにも自然に馴染みます。見た目と演奏上の使いやすさを両立できるため、僕個人としては舞台の本番靴として重宝しています。
日本製で残されるオペラパンプス
現在、オペラパンプスを店頭で見つけることは簡単ではありません。履く機会が少なく、通常の革靴ほど多く売れる種類でもないはずです。
それでもREGALは、このモデルを現在も日本製の定番商品として作り続けています。作りはしっかりとしており、正装靴として必要な端正さにも不足はありません。
世界的な高級靴メーカーやビスポーク工房ではなく、日本の多くの人にとって身近なREGALが、これほど用途の狭い伝統的な靴を残している。そのこと自体が、この靴の面白さの一つだと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。硬く、合わせられる服装も限られ、日常的な実用性はほとんどないREGALのオペラパンプス。
しかし、靴の実用性は、どれだけ長く歩けるかだけで決まるものではありません。舞台という限られた場所では、ペダルの踏みやすさと正装に相応しい佇まいを備えた、非常に頼りになる一足です。
現在では珍しくなったオペラパンプスが、今も日本国内で作られている。当ブログでは今後も、こうした用途の狭さゆえに独自の美しさを持つ靴を紹介していきますので、お楽しみいただけますと幸いです。






