手仕事が遊びに徹する時 Silvano Lattanzi スペクテイターシューズ

皆様こんにちは。二色使いの革靴に対して、どのような印象をお持ちでしょうか。少し派手すぎる、履きこなす自信がない。そんな風に感じる方も多いのではないかと思います。僕自身も、憧れはありつつ長らく一歩を踏み出せずにいた一人でした。ですが、イタリアで暮らしているとその感覚が少しずつほぐれていきます。今回は二色靴の代表格である”スペクテイターシューズ”を、イタリア靴の一つの極北とも言える”Silvano Lattanzi”の一足から紹介させていただきます。

Silvano Lattanzi Spectator Shoes

Silvano Lattanzi スペクテイターシューズ

Silvano Lattanziは1971年、マルケ州出身のSilvano Lattanzi氏が21歳の時に興した工房を起点とするブランドです。当初は自身の苗字をもじった”Zintala”という社名でした。その後ロンドン、パリ、ミラノの老練な職人のもとで手仕事を磨き、1975年には赤や青、黄色といった色を大胆に使った靴を発表して業界を驚かせています。黒か茶しか存在しなかった当時の紳士靴の常識からすると、相当な異物だったはずです。

現在はマルケ州モンテグラナーロを拠点とし、一足あたり300を超える工程を経て作られる靴は、既製靴としては世界でも指折りの価格帯に位置しています。

今回紹介するのはブラウンとホワイトのスムースレザーのコンビネーションによるフルブローグ、いわゆるウィングチップのスペクテイターシューズです。ハンドソーンウェルテッドで作られており、堅牢かつ非常に柔らかい履き心地を持っています

Silvano Lattanzi スペクテイターシューズ インソールのロゴ

スペクテイターシューズという靴

そもそもスペクテイターシューズとは、色の異なる二種類の素材を組み合わせた靴を指します。起源については、以前紹介した英国の名門”John Lobb”が1868年にクリケット用として作ったものという説が有名です。もともと白一色だったクリケットシューズは汚れが目立つため、汚れやすい爪先と踵にだけ濃い色の革を当ててみたという理屈ですね。もっともそれ以前の写真にも二色の運動靴がなどが写っているようで、この起源譚がどこまで正確かについては議論があります。

この靴が広く認知されるようになったのは1920年代から30年代にかけてになります。アメリカなどで主にスポーツ観戦に出かける人々が履いたことから”spectator(観客)”の名がつきました。一方の英国では、この華やかさが紳士的でないとされ、”co-respondent shoe”という呼び名が与えられます。これは姦通訴訟における第三者を指す法律用語で、靴の二色が”corresponding”していることとの掛詞になったという、ブリティッシュ味が深い、なかなか棘のあるあだ名です。英国といえば、この靴はウィンザー公が愛用したことでも知られていますね。

生まれは実用、育ちは享楽、そして皮肉される。こんな出自を持つ靴も珍しいのではないでしょうか。

履いてみて

僕は普段英国サイズでいう7ハーフもしくは8を履いているのですが、この靴は実は8ハーフになっています。ただ、実際に履いてみると、思ったよりもゆるさがなく、気持ちよく歩けます。

合わせについては、思っているほど難しくありません。少しスポーティな春のブレザースタイルだったり、ジャケパンであれば比較的なんでも合うと思います。

ちなみに、この靴は当然ながらステージには履いていけません。以前コンサートの服装について書いた記事でも触れた通り、演奏会の足下は基本的に黒が原則です。ですがだからこそ、舞台を降りた日の靴としてこういう一足があるというのは、生活に良い緩みを生んでくれます。年中黒い靴ばかり履いていると、どうも気持ちの方まで硬くなってきますよね(最も所有しているのは茶色の靴が大半ですが…)

まとめ

いかがでしたでしょうか。派手に見える靴ほど、実は生真面目な出自を持っていたりするというのは面白いところです。当ブログでは今後も新旧問わず、僕が個人的に思う色々な名靴を紹介していきますので、お楽しみいただけますと幸いです。

干梅太郎

干梅太郎

イタリア在住のピアニスト。クラシック音楽と、イタリアの古い服について書いています。
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