イタリア古着ディグ日記 #25 Enrico Mandelli スエードハーフコート

こんにちは。時に皆様は、古着屋で全く知らないブランドのタグに出くわしたときにどうされますでしょうか。僕はとりあえず縫製や素材だけ見て、良さそうなら買ってから調べる、という順番になりがちです(もちろん値段との兼ね合いですが)。以前このディグ日記でも、第十回を区切りに「今後は誰も知らなさそうなアイテムも織り交ぜていきたい」というようなことを書いたのですが、今回はまさにその類いの一着になります。

とはいえ、スエードの重衣料というのは古着で狙うにはなかなか厳しい相手です。革ものはとにかく状態がピンキリになりがちなので、そういう意味では、目当ての一品に出会う確率はかなり低いと思っています。そんな運良く中で出会ったのが、今回ご紹介するEnrico Mandelliのスエードハーフコートです。

Enrico Mandelli Suede Half Coat

Enrico Mandelli Suede Half Coat

こちらが今回ディグったハーフコートになります。日本ではほとんど名前を聞かないブランドかと思いますが、イタリアの重衣料の世界では相当な古株です。

始まりは1900年代初頭、コモ湖のほとりでEnrico Mandelliが上質な革を扱う商人として仕事を始めたところから。1925年に息子のPaoloが加わって衣料の世界へと踏み込み、1954年には妻のErmelindaとともに会社として法人化します(当初はEmme Spaという社名で、のちに創業者の名を取ってEnrico Mandelli Spaとなったようです)。

1960年には三代目のEnricoが入社し、カシミヤやヴィキューナといった上質な素材と革を組み合わせたアウターで評価を高めていきます。

本社は今もロンバルディア、レッコ県のメラーテ。マンゾーニの『いいなづけ』の冒頭で描かれるあの湖のほとりで、公式サイトでもその一節が引かれています。ミラノから電車で小一時間の、ごく静かな土地です。

Enrico Mandelli Suede Half Coat タグの様子
裏地にはカシミヤ100%の生地が使われています

名前を出さない側の会社

このブランドが面白いのは、自社名を前に出さない仕事を長年やってきた点です。

1970年代にはプレタポルテの父と呼ばれるWalter Albiniとの協業に始まり、1978年にはBasileと組んで、メンズ・レディース双方の高級既製服を工業的に量産する体制を初めて築いたとされています。1982年からはFranco Moschinoとの関係が十年以上続き、そして1990年、Dolce & Gabbanaのレザーアイテム全般を世界規模で製造するライセンスを取得しています。

つまり、80〜90年代のイタリアもののレザーやアウターを漁っていると、タグにはメゾンの名前が入っているけれど、実際に縫っていたのはメラーテの工場だった、という個体に相当な確率で当たっているはずなのです。

このディグ日記でも、第三回のバーバリーがベルベスト製の個体でしたし、第六回のブリオーニはミラノのセレクトショップによる別注品でした。第五回で紹介したドルチェ & ガッバーナにしても、ネクタイはネクタイで別の作り手がいるわけです。誰の名前が表に出るかというのは、服の中身とは案外関係がないのだなと、こういう個体を手に取るたびに思います。

スエード素材は維持が大変だとよく言われますが、実は、元々はかなり乱雑に扱えるような物なので、ガンガン着用できたらと思います。

購入時の価格は50€(当時のレートで約9000円)でした。ディグ日記で紹介したアイテムの中ではおそらく一番高額かと思いますが、それでも安い買い物かなぁとは思います。

いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。もしよければ前回の古着ディグ日記もぜひチェックしてみてください。

干梅太郎

干梅太郎

イタリア在住のピアニスト。クラシック音楽と、イタリアの古い服について書いています。
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