リネンジャケットのすゝめ

夏にジャケットを着るというのは、正直に言ってしまえば我慢比べの側面があります。ただ、それでもジャケットを羽織りたい日、羽織らなければならない日というのは存在しますよね。そんな時に真っ先に思い浮かぶのがリネンという素材かと思います。冬のエレガンスをカシミヤが担うなら、夏のエレガンスはリネンが担っていると言っても過言ではありません。

リネンは亜麻という植物の茎から取られる繊維で、人類最古の織物繊維の一つと言われています。古代エジプトでは「月の光で織られた生地」と称され神聖視されていた、なんて逸話も残っているほどです。ちなみに日本語では「麻」と一括りにされがちですが、麻と表記される物にはラミー(苧麻)なども含まれますので、リネン=亜麻と覚えておくと少しだけ解像度が上がります。良質な亜麻の産地として知られるのはフランス北部からベルギーにかけての北海沿岸地帯で、この辺りで育った亜麻から紡がれた糸が、アイルランドやイタリアの機屋で美しい生地になっていきます。

僕の暮らすイタリアの夏は日差しが強烈で、7月ともなると日中の外出はちょっとした冒険です。そんな環境で暮らしていると、リネンという素材が何百年も愛され続けている理由を、肌で理解する事になります。

リネンジャケットの良い点

リネンジャケットの良い点は、なんと言ってもその涼しさにあります。リネンの繊維は吸湿性と発散性に非常に優れており、汗をかいてもすぐに吸って外へ逃がしてくれます。さらに熱伝導率が高いため、肌に触れた瞬間ひんやりと感じられます。要するに、暑い夏に着る為に生まれてきた様な素材なのです。

そして、見た目にも涼しいというのが装いの素材としては大事なポイントです。リネン特有のシャリっとしたドライな質感と、ナチュラルな節のある表情は、見る人にまで清涼感を与えてくれます。暑苦しく見えないジャケットというのは、夏においては着ている本人の為だけでなく、周りへの礼儀でもあると思います。

ベルベストのリネンジャケット
明るいオフホワイトベースに3パッチポケットというカジュアルな仕様もリネンならではの楽しみ

また、リネンは実はタフな素材でもあります。水に濡れるとむしろ強度が増すという特性があり、着込んで洗いを重ねるほどに柔らかく、こなれた風合いに育っていきます。経年変化を楽しめるという点では、革靴やデニムにも通じる魅力があります。

リネンジャケットの欠点

さて、ここまで褒めちぎってきましたが、皆様お察しの通り、リネンには絶対に避けて通れない欠点があります。そう、シワです。亜麻の繊維は弾性が低く、一度折れるとそのまま素直に折れ癖として残ります。朝しっかりアイロンをかけて家を出ても、腰を下ろした時点でもう最初のシワが刻まれています。

また、肘や背中など、よく動く部分は型崩れも起きやすいです。特に僕の様に、一日の大半をピアノの前に座って過ごす人間にとっては他人事ではありません。座って、弾いて、立ち上がった瞬間に、肘と背中がその日の行動を正直に報告してくるのです。

シワは本当に欠点なのか?

ただ、ここで少し立ち止まって考えてみたいのです。そのシワは、本当に「欠点」なのでしょうか。

以前、イタリアでは誰もボタンをいくつ開けるか気にしない理由という記事を書きましたが、シワについても全く同じ事が言えます。少なくとも僕の周りのイタリアの人々は、リネンのシワを気にしていません。むしろ、シワひとつないパリッとしたリネンの方が、どこか着せられている様な、不自然な印象すら与えます。リネンのシワとは、その人がその日をどう過ごしたかの記録であり、この素材が持つ柄の一部なのだと思います。

キートンのリネンジャケットのシワの様子

とはいえ、シワの「出方」は選べます。ポイントは生地の重さと密度です。例えば目の詰まった重めのアイリッシュリネンに見られるようなしっかりとした生地は、シワが大きくゆったりと出るので品良く見えます。逆に、薄くて織りの緩い生地は細かくくしゃくしゃになりがちです。また、ウールやシルクとの混紡生地であれば、リネンの清涼感を残しつつシワはかなり抑えられますので、シワとの共存にどうしても抵抗がある方は、そちらから入るのがお勧めです。

どうやってケアするの?

リネンジャケットのケアは、実はそこまで難しくありません。着用後はハンガーにかけて一晩休ませてあげてください。リネンは湿気を吸うと繊維が緩む性質があるので、浅いシワは吊るしておくだけである程度落ち着きます。気になるシワにはスチームか霧吹きを軽く当てれば十分です。毎日アイロンで攻め立てる必要はありません。

あとは通常のジャケットと同じように、連日の着用を避けてローテーションを組む事を心がけるなど、この辺りは他のジャケットと変わりません。ちなみに仕立てについては、リネンの軽さを最大限楽しむなら裏地なしのアンコン仕立てとの相性が抜群です。

夏のジャケット選びに迷われている方は、ぜひ一度リネンジャケットに挑戦してみてください。新品はもちろん、古着でも状態の良い物を見つける事は十分可能です。シワを恐れず着込んでいくうちに、自分だけの風合いに育っていく過程を、きっと楽しんで頂けると思います。

いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ頂けましたら嬉しいです。他にも色々な生地について書いておりますので、暇つぶしにお読みいただけますと幸いです。

もし気に入ったらシェアで応援してください!

Spotlight

Spotlight

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *