幻の靴と呼ばれた工房 Bonora シングルバックル ショートブーツ

Bonora シングルバックルショートブーツ

皆様こんにちは。当ブログの靴記事を並べて眺めていると、どうもバックルの靴が多いなと自分でも思います。ただ今回のものは、これまで紹介してきたシングルモンクとは少し様子が違います。くるぶしまでの丈を持った、いわばモンクストラップとチャッカブーツの中間のような一足です。しかも作り手は、日本の靴好きの間では”幻”という言葉と共に語られてきた名工房。今回はダークブラウンの”Bonora”のショートブーツを紹介させていただきます。

Bonora Single Buckle Short Boots

Bonora シングルバックル ショートブーツ

Bonoraは1878年ボローニャにて創業と伝えられる、イタリアでも最古級の靴工房の一つです。従兄弟同士だったOlivero BonoraとIldebrando Bonoraによって始められたとされています。

創業当初からビスポークを中心としていたため市場にほとんど出回らず、そのことが”幻の靴”という呼び名を生みました。そして、革の裁断から仕上げの磨きまで200近い工程を一人の職人が受け持ち、週に数足しか作られなかったと言われていることです。多くの工房が分業を採るなかで、一人が一足を最後まで見るというやり方は、効率という言葉から最も遠いところにあります。既製品の販売を始めてからも、その徹底的な品質へのこだわりは変わっていません。

Bonora シングルバックル ショートブーツ シームレスヒールの様子

Bonoraの技術を語る際に必ず挙がるのが、縫い目のないシームレスヒールです。踵は最も負荷がかかり裂けやすい箇所なので、そこに縫い目を作らないという発想自体が贅沢なのですが、これを美しく成立させられる工房は限られています。また、ウッドネイルの使用も特徴として知られています。

そしてもう一つ、エルメス傘下となったJohn Lobb Parisが既製靴を出し始めた当初、その上位モデルであるPHILIPやMATTAなどの製造を請け負っていたのがBonoraだった、という話が靴好きの間ではよく知られています。

「旧ボノーラ」と呼ばれるもの

中古市場でこのブランドを探すと、必ず”旧ボノーラ”という言葉に行き当たります。

一般に語られているのは、2002年頃を境に作りが変わったということです。それ以前はウェルトの仕上げを手作業で行っていたものが、リブを用いたグッドイヤーウェルテッド製法へと移行したとされています。製法そのものの優劣の話ではないのですが(この点については以前グッドイヤーとマッケイの記事で書きました)、Bonoraという工房が何を売りにしていたかを考えると、これは決定的な変化でした。

さらに2003年頃には親会社の破綻によって一度操業が止まり、その後別の資本によって復活したものの、かつて靴好きを熱狂させたクラシックな靴とは性格の異なる製品が並ぶようになった、と言われています。現在では公式サイトも販売網も確認できず、実質的には歴史の中の存在です。

つまり”旧ボノーラ”とは、この断絶より前の個体を指す呼び名なわけですね。

Bonora シングルバックル ショートブーツ 旧ボノーラのロゴ

非常に滑らかで明らかに品質の高いスムースレザーがふんだんに使用されており、チャッカブーツの形状をしていながらフォルムなどによって非常にドレッシーにも見える、とても美しい靴です。

ブーツというのは、丈があるぶん足首を固定してくれるので、長時間歩く日には本当にありがたい形です。それでいてこの靴はドレッシーな顔をしているので、ジャケットを着た日にもそのまま履いていけます。

特に秋冬の石造りの建物の底冷えというのは想像以上で、そういう日に足首まで覆ってくれる靴があると、体力の減り方がまるで違います。以前チャッカブーツについて書いた記事でも触れましたが、旅と冬に強い靴を一足持っておくというのは、実用面でかなり大きな意味を持ちます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。情報が少なく、確かなことを言い切れない部分の多いブランドではありますが、だからこそ現物を持っている人間が語る意味があるようにも思います。当ブログでは今後も、こういったイタリアの今は亡き工房の靴を紹介していきますので、お楽しみいただけますと幸いです。

干梅太郎

干梅太郎

イタリア在住のピアニスト。クラシック音楽と、イタリアの古い服について書いています。
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