観光はひと区切り!でも、夕食にはまだ早い時

皆様こんにちは。突然ですが、イタリア旅行中にふと夕方の過ごし方に迷うことはありませんか。
予約していた美術館を見終わって、街もひと通り歩いたけれど、夕食に行くにはなんとなくまだ早い。でも、そのためだけに一度ホテルへ戻るのも面倒くさい。せっかくの旅行ですから何かしないと勿体ないような気もしますし、かといって、これ以上歩き回る元気もない。そんな中途半端な時間が出来ることってありますよね。
そういう時に知っておくと良いのが、イタリアでお馴染みのアペリティーヴォです。名前だけ聞くと少し洒落た感じがしますが、飲み物を頼んで、何かつまみながらお喋りをするという、至って気軽なものです。今回は、このアペリティーヴォの楽しみ方と、その背景にある飲み物の話を少ししてみたいと思います。
アペリティーヴォって、そもそも何なのか
アペリティーヴォ(aperitivo)は、日本語ではよく「食前酒」と訳されます。もちろん間違いではないのですが、これだけだと、レストランで食事の前に出される一杯を想像する方もいるかもしれません。イタリアでは飲み物そのものに加えて、それを飲みながら人と過ごす習慣のことも、アペリティーヴォと呼んでいます。
なので、「アペリティーヴォに行こう」と言われたら、夕食前にちょっと飲みに行こう、くらいの意味で考えると分かりやすいと思います。バールなどに集まって、ワインやカクテルを飲みながら近況を話したり、その後の夕食をどうするか相談したりするわけですね。
以前、ピッツェリアで誰かと食事をする時間についても書きましたが、食べたり飲んだりすることには、一緒にいる人と話をする楽しみもあります。アペリティーヴォは、その部分を夕食の前から始めているようなものだと思います。どうせこの後にも食事をするのに、その前にも集まって飲んでいる。そう書くと随分と暇そうですが、こういう時間の使い方は良いですよね。
もちろん、一人でも楽しめます。誰かと話していなければいけない訳でもないですし、歩き疲れた時にカフェに入るのと、そこまで違う話ではありません。飲み物を前にぼんやりしていても良いですし、その日に撮った写真を見返しているうちに、夕食の時間になっているかもしれません。
何時ごろに行って、何を頼む?

夕方なら、大体18時ごろから夕食までがひとつの目安です。イタリアでは夕食の営業が19時半ごろからという店も多いので、20時にレストランを予約しているなら、18時半あたりから軽く一杯、という具合ですね。勿論、地域や季節、お店によって時間は変わります。
飲み物でよく知られているのは、やはりスプリッツでしょう。中でもアペロール・スプリッツは、アペロールというリキュールに、プロセッコとソーダを合わせたカクテルです。テラス席などでよく見かける、あのオレンジ色の飲み物ですね。名前は知らなくても、写真などで見覚えのある方は多いのではないでしょうか。

頼んでみたい場合は、「Un Aperol Spritz, per favore.(アペロール・スプリッツを一杯お願いします)」で大丈夫です。もちろん、ワインが好きならグラスワインでも構いません。アペリティーヴォだから絶対にこれを飲まないといけない、という決まりはありません。
つまみは付いてくるのか、別に頼むのか

初めてだと少し分かりにくいのが、この部分だと思います。飲み物と一緒にポテトチップスやオリーブが出てくることもあれば、生ハムやチーズなどが盛られたお皿を別に頼むこともあります。つまり、アペリティーヴォという名前の、全国共通のセットがあるわけではありません。
なので、値段を見る時も、飲み物だけの値段なのか、食べ物まで含まれているのかで、随分と話が変わってきます。分からない場合は、「Gli stuzzichini sono inclusi?(つまみは料金に含まれていますか)」と聞くのが手っ取り早いです。ビュッフェのある店でも、どの注文で利用できるのかは先に聞いておきましょう。
例えばヴェネツィアには、バーカロと呼ばれる店で、チケッティという小さなつまみを選んで飲む楽しみ方があります。パンに具材をのせたものや魚介を使ったものなどが並んでいて、食べたいものをいくつか選ぶ。飲み物に何が付いてくるかを待つのとは、また違った楽しさがありますね。
もう一つ、店によってはカウンターで立って飲むのと、テーブルに座るのとで料金が変わることもあります。テラスに座りたいなら、その席のメニューを見てから頼むのが確実です。とはいえ、せっかく気に入った景色の前にいるのに、安く済ませることだけ考えるのも少し寂しい気がします。飲み物の値段と、その場所でゆっくり出来ることの両方を見て、自分が納得できれば良いのではないでしょうか。
夕食まで食べてしまう、アペリチェーナ
さて、飲み物の横に食べ物が並んでいると、つい手が伸びるわけですが、最初から夕食を兼ねるほど料理が充実した形もあります。それが アペリチェーナ (apericena) です。アペリティーヴォと、夕食を意味するチェーナ (cena) を繋げた言葉ですね。
飲み物と一緒にビュッフェを楽しむ形式は、その一例です。ただし、アペリチェーナと書いてあるから必ず食べ放題というわけではありません。料理の出し方や、飲み物が何杯含まれているのかは店ごとに違います。名前だけで判断せず、どんな内容なのかを見て選ぶのが良いと思います。
ここまで来ると、食前酒の「食前」はどこへ行ってしまったんだろうとも思いますが、ぶっちゃけ、特に学生などは美味しいものを沢山食べられたら嬉しいでしょうし、そのまま夕食まで済ませられるならありがたいですよね。軽く飲みたい人もいれば、しっかり食べたい人もいる。その違いくらいはあって良いのではないかと思います。
旅行中なら、その後の予定次第です。楽しみにしていたレストランがある日は、つまみを少しにしておく。今日は簡単に済ませたいという日なら、食事の内容を見てアペリチェーナを選ぶ。うっかり食べすぎて、予約していた店の前で「もうお腹いっぱいだな」となってしまっては、流石に勿体ないですから。
夕食の注文については、イタリアのレストランでの店選びと頼み方の記事にもまとめています。コースを最初から最後まで全部頼まなければいけない、というわけではありませんので、そのあたりも含めてお腹の具合と相談してみてください。
スプリッツの、少し意外な生い立ち

ここで少し、飲み物自体の話もしてみたいと思います。アペリティーヴォの歴史を辿ると、トリノとヴェネトという二つの土地が出てきます。
まずトリノでは、1786年にアントニオ・ベネデット・カルパーノがベルモットを生み出しました。ワインにハーブやスパイスなどで香りをつけたお酒で、この街の食前酒文化と深く結びついています。今ではアペリティーヴォというとスプリッツの印象が強いかもしれませんが、もともと飲み物の選択肢はそれだけではないわけですね。
一方、スプリッツの起源としてよく紹介されるのは、19世紀、ヴェネトにいたオーストリア兵が、飲み慣れない強いワインに水を足して飲んだという話です。名前も、ドイツ語で「吹きかける」などを意味する spritzen に由来するとされています。イタリアの飲み物としてすっかり定着しているのに、名前を辿るとドイツ語が出てくるのは面白いですよね。
ただし、その時から現在のオレンジ色のスプリッツだったわけではありません。アペロールが誕生したのは1919年で、今のアペロール・スプリッツにつながるレシピが広まったのは1950年代です。ワインに水を加える飲み方が先にあって、その後にリキュールを組み合わせた形になっていった、という順番です。
こういう話を知ると、「昔からのイタリアらしいもの」だと思っていたものにも、案外いろいろな土地や時代が混ざっているのだなと思わされます。別の土地から来た人の飲み方が、やがてその土地を代表するものになる。普段何気なく頼む一杯にも、そういう来歴があるわけですね。
夕方くらい、少しのんびりしてもいい
以前、ガルダ湖に滞在した時、湖岸で日光浴をしたり、家族や友人とカクテルを飲んだりして過ごす人たちの様子を書きました。僕自身もジェラートを食べながら湖畔を歩いて、随分とぼんやりしていましたが、ああいう時間も含めて、あの街が好きになったのだと思います。
旅行に行くと、見たいものも食べたいものも沢山あるので、つい予定を詰めてしまいますよね。でも、どこかに座って飲み物を飲んでいるだけでも、その街の景色や、そこにいる人たちの様子は目に入ってきます。ずっと次の目的地を調べながら歩いていると、そういうものは意外と見ていなかったりするのかもしれません。
夕食にはまだ早いけれど、ホテルに戻るのも惜しい。そんな時には、近くのバールを覗いてみてください。気に入った席が見つかったら、そこで少し休んでから、晩ご飯を食べに行く。それくらいの夕方があっても良いと思います。






