皆様こんにちは。突然ですが、贅沢な靴とは一体どのような靴でしょうか。希少な革を使った靴。多くの工程を必要とする靴。あるいは、職人が長い時間をかけて作った靴。いくつかの答えが考えられます。
しかし、本当の贅沢とは、単に高価な材料を使うことだけではありません。機械を使えば早く作れる部分にまで手間をかけ、効率よりも美しさや履き心地を優先する。今回は、そうした贅沢をそのまま形にしたような一足。“Mannina Firenze”によるダークブラウンのクロコダイル製コインローファーを紹介させていただきます。
Mannina Firenze Crocodile Penny Loafers

Mannina Firenzeは1953年、靴職人Calogero ManninaによってフィレンツェのVia de’ Barbadoriに開かれた靴工房です。ヴェッキオ橋やピッティ宮殿からも近いフィレンツェの中心部で、現在も小規模な工房による靴作りを続けています。
巨大な工場で同じ靴を大量に生産するメーカーとは異なり、足の採寸から木型の製作、革の裁断や縫製、仕上げまで、人の手を中心に靴を作る工房です。小規模であること自体が品質を保証するわけではありませんが、この靴を見ると、作り手の判断が細部まで行き届くことの強さを感じます。
今回紹介するのは、ダークブラウンのクロコダイルを用いたコインローファーです。形そのものは甲にサドルを配した基本的なものですが、素材とシルエット、そして製法の組み合わせによって、他にはない存在感を持っています。
足の形に沿う、短いシルエット

この靴の面白さは、クロコダイルという素材だけではありません。足の形に沿うように、余分な部分をぎりぎりまで削ったようなシルエットをしています。全体は非常に華奢で、足を包み込むというより輪郭をなぞるような攻めた形です。一方、ノーズは意外なほど短くまとめられています。
細身で長いノーズは、イタリア靴に対して一般に抱かれやすいイメージの一つです。しかし、この靴は細く立体的でありながら、爪先を必要以上に伸ばしていません。短いノーズというと丸く野暮ったい靴になりそうですが、足全体に沿った線によって華奢さと緊張感を保っています。
細いのに長くない。短いのに無骨でもない。その少し矛盾したようなバランスが、この靴を面白いものにしています。
ダークブラウンのクロコダイル
クロコダイルは、それ自体が非常に存在感の強い素材です。一枚の革の中でも斑の大きさや形が異なり、牛革のように均一な表情にはなりません。
そのため使い方によっては華美になりすぎますが、この靴ではダークブラウンという落ち着いた色と、装飾の少ないコインローファーの形によって、素材の強さがうまく抑えられています。
近くで見れば明らかに普通の革ではない。しかし、遠目には濃い茶色の端正なローファーとして収まっている。その距離によって印象が変わるところも、クロコダイルという素材の魅力です。
手縫いのマッケイという贅沢
当ブログの「グッドイヤーウェルテッド製法とマッケイ製法の違い」についての記事でも、マッケイ製法を単なる簡素な製法として評価することへの疑問を書きました。
マッケイ製法は、中底と外底を直接縫い合わせるという、構造だけを見れば非常に単純な製法です。専用のミシンを使えば効率よく作ることができます。
しかし、この靴ではその工程に手縫いが用いられています。
機械で短時間にできることを、わざわざ人の手で行う。その目的は、分かりやすい耐久性や生産性ではありません。コバの張り出しを抑え、足に沿った繊細なシルエットを成立させ、柔らかさと一体感を追求するための手仕事です。
グッドイヤーウェルテッド製法が、頑丈さや修理のしやすさを求める上で合理的な製法であるのに対し、この靴の手縫いによるマッケイは、効率よりも美しさを優先した選択です。どちらが上という話ではありませんが、“贅沢”という尺度で考えるなら、手縫いのマッケイはあらゆる製法の中でも、その極みに近いものの一つだと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。クロコダイルという希少な素材、足の形に沿う攻めたシルエット、イタリア靴としては珍しい短いノーズ、そして手縫いによるマッケイ製法。Mannina Firenzeのコインローファーは、それぞれの要素がすべて同じ方向を向いた靴です。
クロコダイルは目に見える贅沢です。しかし、本当にこの靴を特別なものにしているのは、外からは分かりにくい部分にまで費やされた手間なのかもしれません。当ブログでは今後も、製法や素材だけでは語りきれない、作り手の思想が見える靴を紹介していきますので、お楽しみいただけますと幸いです。






