以前いくつかのブランド比較記事でも述べましたが、人間は悲しいことに、二つの同じジャンルのものを比べたがる生き物です。革靴に関しても例外ではないでしょう。ただ、ブランドの格付けや人気ランキングの記事はネットにいくつもありますが、その多くは価格と知名度を並べ替えたものです。実際に履いた上で書かれたものは、ほとんど見当たりません。
この記事では、私が実際に所有して履いた事のある25ブランドを、個人的な尺度によって格付けしていきます。なので、人によっては「おいおい、どういう事だよ」と物申したくなることもあるかと思いますが、誰が評価してもそういった齟齬は起きるものですので、生暖かく見守っていただければと思います。
なお Church’s は新旧で別物なので2項目に分け、全26項目としています。試着しかしていないブランド(スコッチグレイン、パラブーツなど)は入れていません。そしてこの表において、下にあるから悪いブランドというわけではありません。むしろ革靴の入門として最適なものだったり、中には今でも好んで履いているものもあります。
そして先に結論を書きます。履き心地は、ヒールカップ、ウエストの絞り、ボールジョイント部分と甲のバランスなど、靴のラストがいかに立体的であり、足の形に沿っているかによって決まります。そして、立体的な靴は美しく見えるのが常です。だから「美しい靴は疲れる」というのは、おそらく逆です。そこを作り込んだ靴は、美しくて、しかも疲れない。
その基準で並べたとき、最上段に残ったのは Silvano Lattanzi、Gatto、Bonora、Mannina、そして Edward Green でした。手縫いの小規模な工房に混じって、ノーサンプトンのブランドが一つだけ入っています。
4つの軸
この記事においてつける点数に、ブランドの知名度と価格は含まれていません。含めると必ず有名で高いブランドが上位に来てしまい、それは格付けではなく、値札の並べ替えになるからです。本文には代表モデルの値段を書いている箇所がありますが、今回はあくまでコスパランキングではなくクオリティそのものに対する比較になるので、点数には一切入れていません。ただ、クオリティに対する価格は無視できない部分もあるので、各ブランドへのコメントにて、クオリティと価格のバランス関しては触れている場合があります。また、なるべく最新の価格を反映するようにしていますが、改定と為替で頻繁に動きますので、目安としてお読みください。
- 美しさ — 造形。ラストの峰、トウの落ち方、コバの見え方、面に陰影が出るか
- シンプルなクオリティ — 凝った作りではなく、素直に良いか。過剰な装飾は加点しません
- 気分の高揚 — 履いた朝に上がるか。ここだけは完全に主観です
- 履き心地 — ヒールカップのホールドやウエストの支えを含む、フィット感
大まかには点数に沿いますが、必ずしもこの4軸の合計だけで順位を出しているわけではありません。 同じ5でも好みがあったり、他の軸を凌駕する強みがあったりするので、最後は判断で決めています。ただ、単純に好きかどうかというランキングでもありません。もし好みだけで決めるなら、例えば鞆ゑなんかはもっと上になります。なるべく客観的な目線を保ちつつ格付けしてみました。
革靴ブランド格付け表
| ブランド | 段 | 美しさ2.5=普通 | クオリティ2.5=普通 | 高揚2.5=普通 | 履き心地2.5=普通 | 買える |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Silvano Lattanzi | 神! | 5 | 5 | 5 | 5 | ○ |
| Gatto | 神! | 4.5 | 5 | 5 | 3.5 | △ |
| Bonora | 神! | 5 | 5 | 5 | 4 | ✕ |
| Mannina Firenze | 神! | 5 | 5 | 4 | 4.5 | ○ |
| Edward Green | 神! | 5 | 4.5 | 4.5 | 4 | ○ |
| Tanino Crisci | 素晴らしい! | 5 | 5 | 4.5 | 4 | ✕ |
| Enzo Bonafè | 素晴らしい! | 4.5 | 4.5 | 4 | 4 | ○ |
| John Lobb Paris | 素晴らしい! | 5 | 4.5 | 4.5 | 3.5 | ○ |
| Crockett & Jones | 素晴らしい! | 4 | 3.5 | 4 | 3 | ○ |
| Church’s|旧 | 素晴らしい! | 4 | 3.5 | 4 | 3 | ✕ |
| Sutor Mantellassi | 素晴らしい! | 4 | 3.5 | 3.5 | 3.5 | △ |
| Allen Edmonds | いい感じ | 3.5 | 3.5 | 3 | 4 | ○ |
| Bruno Magli | いい感じ | 3.5 | 3 | 3 | 4 | ○ |
| Arfango | いい感じ | 3 | 3 | 3 | 4 | △ |
| Church’s|現行 | いいけど他を手に取る | 3 | 3 | 2.5 | 2.5 | ○ |
| Tricker’s | いいけど他を手に取る | 3 | 3 | 2.5 | 1 | ○ |
| Grenson | いいけど他を手に取る | 3.5 | 3.5 | 3 | 1 | ○ |
| John Spencer | いいけど他を手に取る | 3 | 3 | 2 | 2 | △ |
| Silvano Mazza | いいけど他を手に取る | 4 | 3.5 | 3.5 | 2 | ✕ |
| Ferrante | いいけど他を手に取る | 3 | 2.5 | 2.5 | 4 | ○ |
| REGAL | 革靴入門にピッタリ | 2.5 | 2.5 | 2 | 2.5 | ○ |
| 鞆ゑ | 革靴入門にピッタリ | 2.5 | 2.5 | 3 | 3 | ○ |
| Bostonian | 革靴入門にピッタリ | 2.5 | 2.5 | 2 | 2.5 | △ |
| Cole Haan | 革靴入門にピッタリ | 2.5 | 2 | 1 | 1 | ○ |
| Clarks | 革靴入門にピッタリ | 3 | 2 | 3 | 2 | ○ |
| GUCCI | 特殊枠 | 4 | 3 | 3.5 | 5 | ○ |
各軸5点満点。2.5 が「普通の革靴」の水準で、バーの真ん中の目盛りがその位置です。
自分で選んで買ったものばかりなので、全体に高めに出ています(26ブランドの中央値は3.5)。
横にスクロールできます。
一覧は次の表の通りになりました。以下、なぜそうなったのかを、簡単なブランドの紹介とともに書いていきます。
革靴入門にピッタリ
まず大前提として、ここに並んでいるブランドが格下という意味ではありません。むしろ最初の一足として正しいという位置付けで、長く履けるものがたくさんあります。個人的にも、いくつか気に入って所有し続けているものがありますし、シンプルに好きかどうかの話をするともっと上位に来るブランドなんかもあります。
REGAL(リーガル/日本)

1902年、日本製靴株式会社として創業。単独の創業者はおらず、大倉組皮革製造所・桜組・福島合名・東京製皮という4社の製靴部門を統合して、銀座に設立されたのが始まりです。
「リーガル」はもともとアメリカのブランドで、1961年に米ブラウン社(現 Caleres)と技術導入契約を結んだことで、日本での生産と販売が始まりました。商標権を買い取ったのは1990年4月、社名をリーガルコーポレーションに変更したのはその半年後です。つまり買収ではなく、ライセンスから始まって最終的に商標を取得したという順番になります。ここはよく逆に書かれています。
代表モデルはストレートチップの 315R(グッドイヤーウェルト、34,100円)や、革底の 01DR(50,600円)。グッドイヤーウェルトのラインはおおむね3万3,000円から5万2,800円のあいだに収まります。
ひとつ書いておくと、2026年2月にリーガルコーポレーションが構造改革を発表しています。グッドイヤーウェルトとマッケイを生産していた子会社チヨダシューズの新潟工場が同年2月末で操業を停止し、生産は他の国内工場へ移されました。会社は品質と供給に支障はないとしていますが、国内でグッドイヤーウェルトを回せる工場が一つ減ったこと自体は、覚えておいていい出来事だと思います。
オペラパンプスしか所有したことがないのですが、ヨーロッパの靴と比べるとかなり特殊なラストをしていると思います。例えば、僕はUK7 1/2もしくは8が基準、スニーカーのサイズは26.5cmもしくは27cmを履きます。しかし、リーガルでは25 EEEというサイズになります。初めて買う方の場合、サイズ選びの際はリーガルの直営店でしっかりと店員さんと相談して購入することをお勧めします。作りや素材などは、初めての本格靴としては申し分ないと思っています。個人的には上位ラインのマスターリーガルなどもいつか試してみたいと思っています。
鞆ゑ(ともえ/日本)

1948年、東京・浅草で長谷川三郎氏が紳士靴の卸として創業しました。2023年8月にチヨダが株式を100%取得して子会社化しています。チヨダにとっては14年ぶりのM&Aで、狙いは百貨店向け卸チャネルの獲得でした。
粋・墨・桜・藍というシリーズを持ち、そこに2024年発売の「蕾」と、その後に加わった「藤」があります。公式通販での価格は18,700円から49,500円。蕾は3型とも20,900円で、発売時から据え置きです。日本製で、姫路タンナーのガラスレザーを使っています。なお、シリーズごとに製法が違うという説明をよく見かけますが、現行品についてそれを裏付ける公式の表記は見つけられませんでした。
経営については、トモエ商事が2023年7月に株式会社チヨダの子会社になっています。
こちらも日本の革靴メーカーとなっています。印象としてはリーガルよりもヨーロッパの靴のサイズ感に少し似ていると思います。特にマッケイの靴などは価格とクオリティのバランスが個人的にかなりいいと思っており、特に「桜」なんかのフォルムなどもかなり好きです。(写真の私物は履きすぎて修理が必要です…)
革靴入門の話になると先出のREGALやScotch Grain、Berwick、最近ではRAYMERなんかが話題になりますが、もう少し人気が出てもいいブランドだと個人的には思っています。
Bostonian(ボストニアン/アメリカ)
1899年、マサチューセッツ州ウィットマンで生まれた、アメリカで最初のプレミアム紳士靴ブランドを自認するブランドです。1979年に英クラークスがブランドを取得し、現在もその傘下にあります。
2018年の秋には「Made in the USA」を掲げて5型でリローンチしました。ニューヨーク州バッファロー製、グッドイヤーウェルト、50年以上使われてきた No.16 ラスト、価格は475〜500ドル。アメリカ靴らしい、真っ当な作りでした。
ただ、このラインはもう売られていません。2026年8月に調べた限りでは、ブランドの公式サイトは設定のない状態になっており、Clarks の米国サイトからも Bostonian の区画そのものがなくなっていました。今この名前で流通しているのは、メイシーズなどが扱う75〜110ドルの輸入靴です。ソールはラバーか EVA。終了の告知は見つけられなかったので、静かに畳まれたということだと思います。この記事で僕が書いているのは、あくまで前のBostonianの話です。
と、ここまでアメリカ製の話をしていましたが、実は僕が所有しているのはなぜかイタリア製なんですよね。というのも、父が昔(20年以上前)に買ったものだとか。なので、今後アメリカ製のBostonianを手に入れたらまた改めて評価したいと思っています。古い靴あるあるで、結構いい革が使われています。個人的には結構好きですが、先ほども述べた通り、現在は中古でしか手に入りません。ただ、個体数はそこそこあるので、高円寺などに行けばお気に入りの一足が見つかると思います。
Cole Haan(コールハーン/アメリカ)
1928年、シカゴで創業。1988年にナイキが買収し、2013年2月に Apax Partners へ売却されました(合意額5億7,000万ドル)。現在も Apax が保有しています。
ひとつ断っておくと、現在の Cole Haan はグッドイヤーウェルトのドレスシューズブランドではありません。2019年度の時点でカジュアル・アウトドア・スポーツが靴売上の過半を占めており、代表モデルの ZERØGRAND は EVA ミッドソール。ナイキ傘下の時代を経て、完全に別の商売になったブランドです。現在の価格は定価で150〜310ドル、中心になるドレス寄りの型は170〜200ドル。アッパーは革ですが、ソールはラバーか EVA で、生産は輸入です。
このブランドだけ明らかに点数低くない?と思った方もいると思います。セメントのキルトローファーを以前持っていたのですが、ラストもかなり大雑把で正直作りはあまりよくありませんでした。ぶっちゃけた話をするなら、新品でこれを買うなら先ほど紹介したような日本製の靴を買う方が良いです。
ただ、それでも入門向けとして加えたのは、ヴィンテージのマッケイなどのものですごく安くていいものがあるからです。つまり、Cole hannはBostonianと同様、ヴィンテージ革靴入門としてぴったりなのです。製法の見分けなども含めいろんな意味でわかりやすいので、興味がある方はぜひ古靴店などでチェックしてみることをお勧めします。
ヴィンテージの革靴って、実際どうなの? 買う前に知っておきたいメリットとデメリット
Clarks(クラークス/イギリス)
先に断っておくと、クラークスはグッドイヤーウェルトのドレスシューズを作っていません。なので厳密には他の24ブランドと同じ物差しには乗りません。それでも入れたのは、日本で「最初のちゃんとした革靴」として実際に選ばれているからです。役割としてこの段に属します。
1825年、サマセット州ストリートで Cyrus Clark が創業(弟の James が1828年に参加)。ただし英国生産は実質的に終わっています。最後の英国工場は2005年にストリートで閉鎖され、2017年にロボットを導入して一度は生産を戻したものの、2019年1月に再び閉じました。
所有も創業家を離れています。2021年3月に香港の LionRock Capital が1億ポンドで過半数を取得し、現在は Viva Goods Company Limited が51%を保有(2023年1月に到達)。残る49%が創業家です。代表はデザートブーツ(1950年)とワラビー(1967年)。英国公式ではどちらも定番色が99ポンドで、シーズンものの色が130ポンドです。
先ほども述べた通り、正直カジュアルシューズがメインのブランドなので、この文脈に入れるかどうかは悩んだのですが、ファッションの文脈的にもClarksのデザートブーツは外せないと感じたので紹介しました。普通に履きやすいですし、コーディネートに使いやすい靴なのでお勧めします。
いいけど他を手に取る
ここで紹介するブランドの作る靴は、基本的に良い靴だと思っています。もちろん今でも所有しているものも、履いているものもあります。ただ、自分は別のものに手が伸びることが多い。その理由を書きます。
Church’s|現行(チャーチ/イギリス)

公式は1617年の Anthony Church を起点としますが、実質的な創業は1873年、Thomas Church が妻と息子2人とともにノーサンプトンの30 Maple Street に工場を開いたときです。
1999年、創業家の同意のもとでプラダグループが買収。現在もノーサンプトンの St James Road 工場で生産しており、1足につき約250工程・8週間をかけています。2025年には従来より柔軟な「Goodyear 2.0」も導入しました。代表モデルは Consul(173ラスト、ストレートチップ、米国公式1,320ドル)、Shannon、Burwood。現在は従来の Consul と並んで「Consul R 2.0」も同価格で置かれています。
旧チャーチとは別項目にしています。分けた理由は「素晴らしい!」の項をご覧ください。
決して悪い靴ではないのですが、ブランドネームと価格を考えると「ふむふむ」と思ってしまいます。また、どのラストも致命的に足に合わず、痛くてしょうがないので個人的にはあまり得意ではありません。ただ、唯一Ryderを所有しており、少し痛みますが雨用靴として気に入って履いております。
Tricker’s(トリッカーズ/イギリス)

1829年、ジョセフ・トリッカーがノーサンプトンで創業。5世代続く同族経営で、資本の異動が一度もない珍しいブランドです。1989年には当時のプリンス・オブ・ウェールズ(現チャールズ3世)からロイヤルワラントを授与されています。
グッドイヤーウェルトにストームウェルトを重ねた、頑健な作りが特徴。1足260工程・8週間をかけます。代表モデルはカントリーブローグの Bourton(公式565ポンド)と、ブーツの Stow。
フルブローグなど、このTricker’s特有のぼってりとした雰囲気は味があってかっこいいと思いますし一定の憧れはあります。ただ、シティで履くには個人的には少し野暮ったすぎるかなぁとも感じます。なので必然的に街で暮らしている僕にはあまり縁がありません。もし将来田舎に引っ越すことができたなら、こういう靴も積極的に収集したいと思います。ただ、Church’sはまだ痛いだけなのに対して、Tricker’sは僕の足には踵が大き過ぎて履けないという大きな問題もあり、個人的にはこの位置です。今手元にあるものも手放そうかと検討中です。ただ、決して悪い靴ではありませんので、お好きな方には両手をあげてお勧めします。
Grenson(グレンソン/イギリス)
1866年、ウィリアム・グリーンがノーサンプトンシャーのラッシュデンで創業。トウモロコシ商の屋根裏で靴を作り始めた、というのが公式の語る出発点です。
長らく Tim Little がクリエイティブディレクター兼オーナーとして率いてきましたが、2026年6月、スポーツウェアの Castore が75%を取得して支配権を握りました。Tim Little も同月に取締役を退いています。生産は英国製と海外製が併存しており、Made in England と明記されるのは個別の製品単位です。上位ラインの Triple Welt は英国製で、代表は Aldwych(定価550ポンド)。
いい靴なんですけどそれだけという印象も正直拭えません。個人的には少し野暮ったいかなぁと思ったのと、Church’s同様このブランドの靴もラストが合わなかったので手放しました。ただ、この野暮ったさが好きな方もいるとおもいます。
John Spencer(ジョンスペンサー/イギリス)

かつてノーサンプトンの Technic(Tecnic Boot Co.)が製造していたブランドです。英国での生産は1990年から1992年頃に終わりました。日本で流通しているものの多くは、この英国期のデッドストックです。
その後、元 Technic の社員とされる Douglas Pope が2000年頃にブランドを取得し、生産をスペインのアルマンサとポルトガルへ移しました。ミッドソールもコルクから Ortholite に変わっており、英国期のものとは別の靴と考えたほうがいいと思います。現行品はイタリアの取扱店での定価が245〜335ユーロ前後。ただし実際にはかなり値引きされた状態で並んでおり、英国製かどうかも現行品については確認できませんでした。
実際結構いい靴なんですが、英国時代とその後で大きく変わってしまったブランドでもあります。ただ、今唯一所有しているガラスレザーのローファーは、なんとなく実用品感があって特に雨の日には頻繁に履いています。
Silvano Mazza(シルヴァノ・マッツァ/イタリア)

Silvano Mazzaは1975年、マルケ州で靴職人のSilvano Soliniが立ち上げました。ブランド名の「Silvano Mazza」は、Solini自身の名と、工場主だったGraziano Mazzaの姓を組み合わせたものとされています。SoliniはかつてPradaの靴のデザインにも携わりしていた人物です。
1990年代後半には、Sutor Mantellassiなどと共に、17世紀の靴を思わせる極端にスクエアなトウを採用した靴で注目を集めました。イタリアのタンナーによる革に加え、英国製のライニングやフランス製のソールなど、各国から素材を厳選し、ハンドメイドを中心とした靴作りを行っていたとされます。
しかし2000年代に入るとブランドの活動は次第に縮小し、商標は残っているものの、事実上は廃業状態です。そのため現在は1990年代から2000年代に作られたハンドメイド靴が中古・デッドストック市場で流通している状態です。
正直今の段階でも一つ上のカテゴリでもいいかなと思っています。というのも、この手の今では珍しいデザインの靴は個人的には好きなのと、作り自体はかなりいいからです。ただ、今のところ絶望的に足に合わない個体一足のみしか持っていないので、他に手を伸ばすという意味でこの位置に。入手個体によっては今後変動する可能性はあります。
Ferrante(フェランテ/イタリア・ナポリ)
1918年に Raffaele と Antonio Ferrante が甲革工場を設立し、1948年に甥の Luigi Ferrante が一貫生産の靴工場を立ち上げたのが始まりです。現在日本でも販売されているブランド「Ferrante1875」は2010年に誕生した、比較的若いラインになります。
製法はマッケイが主で、グッドイヤーウェルトやセメントもあります。代表はコインローファーの ISEO(ラスト010)で、ほかに ELEGANT、ARNO、SELE など。日本価格は69,300〜75,900円、正規取扱は BEKKU HOMME、CINQUECLASSICO、TOKYOlife。ナポリらしく、ローファーに強いブランドです。
イタリアらしい軽いローファーという意味でいい靴だと思います。Santoniなどと比べても一段安く、現行で買える本格的なイタリア製ローファーの入門として良いと思っています。実は結構足にあっていて、個人的には歩きやすいです。なので近所を歩くときに履いたりしています。ただ、他に手が伸びる靴がいくつかあるので、今回はここに置きました。
いい感じ!
上の段と下の段のあいだ。欠点があるわけではなく、素直に良い靴だと思っているし、気に入って履いているけれど、手放しで惚れ込んでいるかというとそこまでではない、という位置です。
Allen Edmonds(アレンエドモンズ/アメリカ)
1922年、ウィスコンシン州ベルジャムで創業。2016年12月に Caleres が2億5,500万ドルで買収し、現在も傘下にあります。ちなみにこの Caleres は、リーガルに商標を売った Brown Shoe Company の後身でもあります。
アメリカのブランドとしては珍しく、ウィスコンシン州ポート・ワシントンでの製造を続けています。212工程、360°グッドイヤーベンチウェルト。リクラフト(オールソール)に力を入れているのも特徴で、過去10年で50万足以上を再生させたと公表しています。代表は Park Avenue、Strand、Fifth Avenue。公式サイトはカートに入れるまで価格を出さない方式に変わりましたが、正規取扱のノードストロームでは Park Avenue と Strand がいずれも450ドルです。
いわゆるアメリカ靴にしては少しシュッとしていて個人的には好みです。歴代アメリカ大統領も愛用という話にも頷ける、優等生チックで上品な佇まいです。昔一度購入したのですが、サイズを失敗してしまいあえなく手放してしまいました。もう一度挑戦したい靴の一つです。
Bruno Magli(ブルーノマリ/イタリア)

1936年、ボローニャ。Magli 家の3兄妹が地下室で始めたブランドです。当初は婦人靴の受注生産で、1947年に自社工場を開いてから紳士靴へ広げました。
所有者が何度も変わっているブランドでもあります。2001年に Opera、2007年に英 Fortelus、2014年に Da Vinci Invest と渡り、2015年1月、経営破綻寸前だったところを Marquee Brands がボローニャ裁判所の競売で2,850万ユーロで取得しました。2024年からはイタリアの Liquid 社が欧州流通を担当して再ローンチしています。現在の公式サイトでは、紳士のドレスシューズがおよそ295〜395ドルで並んでいます。
昔の個体に関してはイタリアらしい軽さがあってとても気に入っています。ただ時代ごとに品質が少し安定しないので、この段に置きました。個体によっては一段上でもいいかなと思うものもあります。ただ、全時代通してある種の重厚さのようなものは感じられないので、好みが分かれるブランドでもあると思います。
気負わない軽さの靴 Bruno Magli コインローファー
Arfango(アルファンゴ/イタリア)

1902年にフィレンツェで創業した老舗ブランドです。ブランド名はフランス語の Harfang des Neiges(シロフクロウ)に由来し、そこから白フクロウがモチーフにもなっています。
2008年から2009年にかけて Moretti 家が取得して再生させ、2013年には仏 EMCap Partners が出資しました。その頃にはドライビングシューズとベルベットローファーで知られ、2015年にはヘンリー王子の愛用として報じられたこともあります。ただ近年は公式からの情報が途絶えており、ブランドとしては休止している状態です。公式ドメインは中身のない転送ページになっていて、新品を置いている店は、2026年8月に探した限り一つも見つかりませんでした。
特にカジュアル系のシューズの雰囲気がいい意味で軽く、個人的には気に入っています。ただ、素材を含め何か特別な作りが施されているか?というとそういう印象もないのでこの位置にしています。いい靴であることには間違い無いので、状態の良いものが中古市場で安く見つけられたらまず買いだと思っています。
無骨さと優雅さの融合 Arfango プレーントゥダービーシューズ
素晴らしい!
ここから上は、4つの軸全てにおいて明確に良いと思っている靴です。神!との差は紙一重で、ある軸が一段届かなかったか、あるいは自分の足との相性の問題であることがほとんどです。
Church’s|旧(チャーチ/イギリス)
Church’sに関しては現行と古い個体を分けています。理由は、同じブランド名で中身が変わったと考えているからです。分岐点は1999年、創業家の同意のもとでのプラダグループによる買収。それまで使っていたラストなどから大幅にモデルチェンジし、古き良き Church’s からの脱皮を図りました。しかし愛好家は本来のラストや製品への思い入れが強く、ここを境に旧チャーチ(3都市以前)と現行(4都市以後)を全くの別物として捉える意見が少なくありません。
ただし、ここで言いたいのは「プラダのせいで駄目になった」というありきたりな文句ではありません。むしろ旧チャーチを持ち上げすぎる語り方のほうにも引っかかりがあります。例えば品質を基準にしているなら、旧エドワードグリーンが同じように神話化されていないとおかしい。でもそうはなっていない。つまりあの評価は品質の判断ではなく、「失われた」という分かりやすい物語に対する反応です。プラダ買収という転落の筋書きが付いているブランドだけが、遡って神話化されている。
そして旧チャーチも、当時から大量生産でした。工場製品として良く出来ていたものに、後から工房的な価値観を投影している。もちろん旧チャーチの品質が今より高かったという多くの証言は無視できるものではありませんし、個人的にもその通りだと思います。
ただ、それを言うなら他の革靴ブランドも昔の方が良かったという、元も子もない言い争いにしかなりません。だからここでは、Crockett & Jones と同じ枠に置いています。実際手にとって旧チャーチは確かにいい靴だと思いましたが、個人的には同じ年代の他のブランドの靴などにより惹かれるため、この位置にしています。ただ、英国靴が大好きな方にとっては絶対に外せない一足だとも思います。個人的には現行同様全く足に合わず、諸事情もあり手放しました。ただ、サイズを色々と試したわけではないので、もう一度チャレンジしてみたい靴でもあります。
Crockett & Jones(クロケット&ジョーンズ/イギリス)

1879年、ジェームズ・クロケットとチャールズ・ジョーンズという義兄弟がノーサンプトンで創業。現在も創業家5代目による同族経営で、資本の異動はありません。1891年から Magee Street の同じ場所で作り続けています。
上位ラインの Hand Grade は公式に存在するもので、Main Collection との違いも公式が明記しています。非対称ラスト、アンティークカーフ、樹皮鞣しの底、チャネルステッチ、手磨き。製作期間も Main が最大8週、Hand Grade が最大10週と差があります。価格は Hand Grade が690ポンドから。代表の Audley は770ポンド、Bury 2 が990ポンドです。Main Collection はこれより下の帯になります。ほかに Cavendish、Pembroke など。
Westfieldの記事でも書いた通り、人生における初めての英国靴なので個人的な思い入れは最も強い一社の一つです。ぼってりとし過ぎておらず、シュッともし過ぎていない、まさに中庸なシルエット感が個人的には好みです。
英国靴代表として、これを履いておけばとりあえず正解と言っても過言ではないともいますが、一段上に並べているブランドに比べると少しラストが合わないのか、一日履いていると少し疲れるのが気になります。ただ、本格革靴とは何か?ということを考えた時に、一度は触れておいた方がいいブランドだと思っています。
普遍を体現する靴 Crockett & Jones(クロケット & ジョーンズ) Westfield
John Lobb Paris(ジョンロブ/イギリス・エルメス傘下)

このブランドを語るにはまず整理が必要です。John Lobb は2社あります。ひとつはエルメス傘下で既製靴を作る John Lobb Paris。エルメスがパリ部門とブランド使用権を取得したのは1976年という説が有力ですが、1974年という説もあり、エルメス自身は正確な年次を公表していません。もうひとつがロンドン9 St James’s Street の John Lobb Ltd で、こちらは5代目の同族経営、ロイヤルワラントを2つ持つビスポークの店です。この記事で扱うのは前者、ノーサンプトン製の既製靴のほうです。
そして面白い事実があります。この工場はなんと旧 Edward Green 工場です。エルメスが1990年代初頭に取得したもので、John Lobb の生産は1995年から。建物は1895年築、週産約500足、従業員85名。その工場の売却騒動の際は相当揉めたとかなんとか。
代表モデルは William(ダブルモンク)と Lopez(ローファー)の2種類。どちらもエルメス公式が名指ししています。公式サイトは価格を表示しない作りなので、参考までに書くと、ミスターポーターでの William は1,890ドルです。
既成靴ブランドの中でもダントツトップと評価されがちなブランドですが、その評価にふさわしいクオリティを持っていると思います。特に、ダブルモンクストラップシューズはこのブランド一択だと考えています。個人的には後述するGucciのビットローファーと同じく、アイコニックなシューズとして特殊枠に入れてもいいのでは?と思います。
ただ、個人的にはJohn Lobbのラストは少しシンプルすぎると思います。僕の場合は足との相性もそんなにいいわけではないので、特別なモデル以外はあえてJohn Lobbではなく、Crockett & Jonesでもいいかなと感じます。もちろん、これに関しては好みの問題なので、一段上に置く方もいらっしゃるかと思います。
気品と無骨さが共存する靴 JOHN LOBB(ジョンロブ) WILLIAM
Enzo Bonafè(エンツォ・ボナフェ/イタリア)

1963年、ボローニャの Via Pollastri 4 で Enzo Bonafè が妻とともに創業。創業者は2023年5月9日に88歳で亡くなり、現在は子の Massimo と Silvia、そして娘婿が運営しています。買収歴はありません。
公式が挙げる製法はマッケイ、ハンドソーンウェルテッド、モカシン、ノルヴェジェーゼ、ボタンブーツと多岐にわたります。職人は約20名、日産約30足という小規模な生産。代表は ART.2695(ビットローファー)や ART.3722(チャッカ)など。日本での価格は、ビームスFの別注で143,000〜242,000円あたり。三越伊勢丹では385,000円のストレートチップも並んでいます。
Enzo Bonafèは、現在も稼働していて、新品で買える靴としては個人的に最もおすすめできるブランドの一つです。技術力も非常に高く、特に九分仕立てで仕上げるハンドソーンウェルテッドの靴は、一度体験すると病みつきになります。それでいて、英国ブランドのグッドイヤーの靴とほとんど同じ価格帯なので、足に合う好みのデザインのものがあれば、ぜひ試してみることをおすすめします。
手仕事が齎す究極の美 Enzo Bonafè キルトタッセルローファー
Sutor Mantellassi(ストール・マンテラッシ/イタリア)

1912年、フィレンツェ近郊の Tizzana で Enea と Ettore Mantellassi 兄弟が創業。1962年に「Sutor Mantellassi」を正式なブランド名としました。1965年にはマルチェロ・マストロヤンニがハリウッド殿堂入りの際に着用しており、イタリアを代表する靴ブランドの一つでした。17世紀の靴に着想を得た、やや角ばったスクエアトゥの靴が特徴です。
しかし2010年、韓国の E-Land グループが買収します。2015年にはピッティで再ローンチし、フラッグシップストアをミラノへ移し、CEO に Hugo Boss 出身の Anton Magnani を迎えるなどリブランディングを図りましたが、イタリアの企業データベースには「Sutor Mantellassi Holding Srl In Liquidazione(清算中)」の登記が存在します。公式からの情報も途絶えているため、実質廃業状態にあります。2026年8月時点で新作の気配はなく、YOOX に残っている60点ほどが軒並み値引きされているだけでした。
このブランドは買収後と買収前で微妙に靴のフォルムなどの方向性が違うのですが、クオリティに関してはあまり変わっていないというのが個人的な印象です。むしろ、買収後の青いソールの個体にもハンドソーンなどかなりこだわっているものもあり、好み次第でどの世代を選んでも損はないかと思います。
流石に誇張し過ぎたスクエアトゥのものなどは現在では合わせるのが少し難しいかもしれませんが、とても良い靴を製造していたブランドなので、状態の良いものが見つかれば買いです。
職人技が生み出す艶 Sutor Mantellassi シングルモンクストラップシューズ
Tanino Crisci(タニノクリスチー/イタリア)

日本語でよく見る「1876年ミラノ創業」は、おそらく誤りです。ブランド名になった Tanino Crisci は1920年生まれの人物で、1876年は父 Alfonso Crisci の生年。工場は1919年、パヴィア県 Casteggio に Alfonso が設立したものです。日本の媒体が父の生年を創業年と取り違えた可能性が高いと思います。
1960年代から国際展開し、ミラノのモンテナポレオーネ、ローマ、フィレンツェ、パリ、ニューヨークに出店。1988年には東京にもブティックを開いています。しかし2007年11月、PEファンドの Camelot が100%を取得(当時売上1,000万ユーロ、EBITDAゼロ)。2011年2月にはミラノ裁判所が予防的和議、すなわち事実上の倒産手続を認可しました。当時の売上は500万ユーロ。日本も2012年に全店舗を閉じて撤退しています。
なお現在 criscishoes.com を運営する Calzaturificio Nuova Crisci S.r.l. はナポリ県アチェッラの別会社で、Casteggio・ミラノの Tanino Crisci との関係は確認できません。中古を探すときは注意が必要です。
ルーツからも明らかに貴族っぽい、ノーブルな雰囲気を持っている靴が特徴的です。生産性度外視かつ最高級の革のみが使われており、特に美しさという一点に絞れば、一段上のブランドに匹敵あるいは上回ることもあります。
4つの軸の点数だけでいえばEdward Greenより高得点なのですが、今回はこの段にこのブランドを置きました。厳密にいえば二つの段の中間に位置しているというのが個人的な解釈です。
というのも、Tanino Crisciは最も足数を持っているブランドの一つであることから、自分の中のイタリア靴におけるある種の基準となっています。つまり、このブランドを超える何かがあるブランドのみを一番上のカテゴリにランク付けしたというのが理由です。好きかどうかという尺度のみで語るなら、Tanino Crisciは間違いなく一番好きなブランドの一つです。
気品と官能の狭間にある靴 Tanino Crisci シングルモンクストラップシューズ
神!
先ほども書いた通り、Tanino Crisciを超える何かを持っていると感じるブランドをここに並べています。主に個体としての美しさで入っているものと、定義としての美しさで入っているもの。前者は作った人の顔が見える靴で、後者は「靴とはこういう形のものだ」という見本のような靴です。
Silvano Lattanzi(シルヴァノ・ラッタンツィ/イタリア)

1971年、創業時21歳。靴職人一家に生まれ、9歳で最初の一足を完成させ、11歳で工房に入ったという人です。工房はマルケ州モンテグラナーロ。ハンドソーンウェルテッドで、ビスポークは1980年代から手掛けています。
2006年の時点で手製靴が2,000〜35,000ユーロ、セカンドラインの Zintala を含む全体の年産が4,000足。日本での最後の取り扱い情報は伊勢丹新宿メンズ館で、2015年のス・ミズーラ会は1,296,000円から、納期は約12ヶ月でした。2002年からは二代目の Paolo と Roberta も加わっています。ちなみに現在の公式サイトは400点以上を掲載していますが、価格は一つも出していません。ミラノのヴィア・ジェズ、ニューヨークのマディソン街、そして伊勢丹新宿に店を構えています。
Enzo Bonafèが僕のファーストハンドソーンだったのですが、Silvano Lattanziはそのさらに上の履き心地を持っています。圧倒的なクオリティを誇る手縫技術と、計算された美しいフォルム、まさに言うことがないブランドです。もし今後一つのブランドからしか靴を買えないとするなら、僕は間違いなくこのブランドを選びます。
手仕事が遊びに徹する時 Silvano Lattanzi スペクテイターシューズ
Gatto(ガット/イタリア・ローマ)

1912年、ローマ創業。創業者の Angelo Gatto はシチリア・ノートの出身で、父が靴職人、母が仕立て屋。15歳で徒弟入りし、英仏で修業しています。1934年には王室御用達(Fornitrice della Real Casa)となりました。顧客はサヴォイア家、ギリシャ王コンスタンティノス2世、エジプト王ファルーク、アラン・ドロン、ジャンニ・アニェッリ、タイロン・パワーなど錚々たる面々が並びます。
長年小さな工房として続けていましたが、2006年4月、Silvano Lattanzi が Gatto を買収しました。報道による取得額は約400万ユーロ、理由は「資産が外資に渡らないようにするため」。当時は年産約350足で、マーロン・ブランド、グレゴリー・ペック、オナシス、ボブ・ケネディ、アラン・ドロンらの名札が付いた木型1,200点を保管していました。
イタリアの商業登記では「GATTO S.N.C. DI SILVANO LATTANZI & C.」が現在も活動中(従業員1名)となっていますが、工房はすでに動いていないという認識です。なお Permanent Style(2026年4月)は、ローマの Stivaleria Mercurio の Antonio Mercurio が Angelo Gatto に師事しており、「正統な後継者」と目されていると書いています。
イタリア、特にローマのビスポーク靴を代表するようなGattoですが、こちらも靴そのもの圧倒的な雰囲気を放っています。Brioniのローマンスタイルのように、イタリアと英国の中間とも言える雰囲気。ただ、残念ながら元々ビスポーク専業かつ廃業してしまったので、もはや完全に足に合う靴というのは手に入りません。とはいえ中古市場には流れていることもあり、根気よく探せば似たような足をしていた人がオーダーしたものが見つかります。
それを加味して、元々既成として作られた他の靴よりもフィッティングが難しいことから3.5としています。また、美しさに関しても個体ごとに微妙にフォルムが違うので、ハウススタイルはあれど「これ!」という決め手になるような、印象的なデザインがわからないのでこの点数にしています。今後さらに新たな個体を入手すると、点数が変動していく可能性があります。
Bonora(ボノーラ/イタリア)

1878年、イタリアのボローニャにて創業しました。創業当初は完全にビスポークを手がけており、既成靴の販売を開始しても、ハンドソーンにこだわっており、そのクオリティから数々の革靴愛好家から称賛されていました。
2003年頃に親会社の C.P.F. Company が倒産して営業停止になり、その後モレッティ家の資本で一時復活しました。しかし製法などを簡素化したりと、クラシックでアルチザン的な至高から変貌してしまい、瞬く間に清算。そのため、愛好家からは資本が変わる前の2002年までの製品をBonoraの製品として認知されています。有名な話では、John Lobbのハイエンド仕様の靴のOEMを手掛けていたという話もあります。
色々と語るべきことはありますが、Bonoraの靴は、なんと言っても美しいです。シームレスヒールばかりが取り沙汰されがちですが、靴全体を通して無駄がなく、適度にグラマラスで、美しさの極みとでも言いますか。全体的な手仕事も洗練されており、トップクラスのこだわりが随所に見られます。
幻の靴と呼ばれた工房 Bonora シングルバックル ショートブーツ
Mannina Firenze(マンニーナ/イタリア)

1953年、Calogero Mannina(2014年頃死去)がフィレンツェに、受注生産をメインとする靴工房を創業したのが始まりです。現在は息子の Antonio Mannina がオーナーで、工房責任者は職人の Giovanni Lorenzo。店舗はアルノ川の南側、Via de’ Guicciardini にあります。
マッケイ製法とグッドイヤーウェルトの両方を手掛け、ソールはオークバーク鞣し。ビスポークと既製の両方があります。公式サイトは価格を出しておらず、電話かメールでの問い合わせになります。第三者の記録を並べると、ビスポークは2017年時点で850ユーロから、2023年時点で1,000〜1,800ユーロという幅が見えます。既製はおおむね300〜600ユーロ台。いずれも公式の数字ではないので、目安として読んでください。年産200足超、納期4〜6ヶ月。日本と米国が最大の市場とされています。
派手さのない、いわゆる工芸品という面をした靴になります。一番注目すべきは攻めた土踏まずのカーブで、足にこれでもかというくらいフィットすると同時に、美しさも持っています。個人的にはかなり好きなタイプの靴になります。知る人ぞ知るとはまさにManninaのことだと思います。
Edward Green(エドワードグリーン/イギリス)
1890年、エドワード・グリーンがノーサンプトンで創業。1977年に経営難からアメリカ資本への売却を余儀なくされますが、ジョン・フルスティックがグリーンの抱えた借金プラス1ポンドという金額でブランドを買収し、1983年に社長に就任します。その後、数々の定番と言われる名作を生み出した、中興の祖とも言える人物です。現在の Managing Director は Hilary Freeman。
生産は英国ノーサンプトンで、週産250〜350足。Top Drawer というプログラムがありますが、これは「ライン」ではなく、既製とビスポークの中間に位置する特注のことで、2013年時点では標準のMTOより約600ポンド高い1,350ポンドからでした。現在も同じ条件で受けているかどうかは、公式サイトが読めず確認できていません。代表モデルはなんと言ってもDover。ハンドソーンのスプリットトウ・ダービーで、猪毛の針を使って2時間以上かけて縫うもので、1920年代から作られている非常にクラシックなモデルです。ほかに Chelsea、Galway、Piccadilly など。公式の Dover は1,370ポンド。
そしてもうひとつ。先ほど書いたエルメス傘下 John Lobb のノーサンプトン工場は、旧 Edward Green 工場です。エルメスが1990年代初頭に取得したもので、John Lobb の生産は1995年から始まりました。
さて、唯一英国靴としてこのランクに入ったのには2つ理由があります。まず、Edward Greenはあくまで既製靴をメインとしたブランドだと考えています。そして、小規模な工房型というよりは、もう少し工場製という側面が強いと思います。そうした中で、英国靴の中でも極めて高いクオリティを誇っている。これは他のブランドには難しいことだと考えています。
そして、もう一つ重要なのはEdward Greenほど「英国靴」を体現しているブランドはないと思うからです。New & Lingwood や Foster & Son、Poulsen Skone、John Lobbなどは勿論、M.BardelliやOld Englandなどのセレクトショップ、Ralph Lauren Purple Lableに至るまでOEMも手がけ、Made in Englandの最高峰の靴を全世界に届けていました。Crockett & Jonesも同様にOEMを手掛けていましたが、両者を比べたときに、グラマラスで美しく、より立体的なEdward Greenに軍配が上がります。
僕はまだ革靴のことを何にもわかってない頃に、Barkleyなどいくつか購入したことがあるのですが、色々と履いているうちになんとなくサイズ感に納得できず、手放してしまった悲しい過去があります。もう一度しっかりマイサイズを入手したいと思っています。
特殊枠
GUCCI(グッチ/イタリア)

1921年、フィレンツェで Guccio Gucci が創業。現在は Kering 傘下です。
ホースビットローファーの誕生は1953年とされ、2023年に70周年を迎えました。ホースビットの金具はアルド・グッチがこの靴のために考案したもので、乗馬の世界に由来します。主にマッケイ製法で、軽く柔らかく作られているのが特徴です。メトロポリタン美術館のコレクションにも1972年頃のグッチのローファーが収蔵されています。ちなみに、最初に下請けとしてホースビットローファーを手掛けていたのは今のEnzo Bonafèだというのは有名な話です。
価格は70周年エディションが146,300〜192,500円(2023年11月時点)。現行のホースビットローファーは、米国の正規取扱で1,050〜1,090ドルです。
正直なところ、クオリティと値段の釣り合いを考えると、他のブランドでもいいビットローファーが見つかると思います。ただ、やはりこの靴はデザインが特殊なので、元祖であるGucciの物は外せない思います。90年代以前の古いものは、今取り扱われていない革や、中には珍しい革を使っているもの、デザインそのものが少し違うものもあるので、現行だけでなくヴィンテージから探すのも面白い一足となっています。
上位に「もう買えないブランド」が多い理由
Gatto、Sutor Mantellassi、Tanino Crisci、Bonora、John Spencer。上の段に並んだブランドのうち、いくつかはもう普通には買えません。
ただ、これは懐古ではないと思っています。あの水準の手仕事と造形は、今の価格帯では採算が合わない。だから消えたか、Lattanzi のように極端な高額・少量に振り切ったか、John Lobb のように大資本の傘下に入ったか、Bonafè や Mannina のように小規模な工房のまま続けたか。そのいずれかしか道が残らなかったということです。
Edward Green が例外的なのは、量産の側でそれを成立させ続けているからだと思います。もちろん企業の採算構造は外からは見えないので、これは製品から逆算した推測でしかありません。ただ、手を入れた形跡がどこまで残っているかを見ていくと、そう考えるのが自然に思えます。
それでも、消えたことと良かったことは別
とはいえ、旧チャーチの項で書いたことと矛盾しないように、もう一度書いておきます。
私は消えたブランドを記録する連載(L’archivio perduto)をやっています。だから旧チャーチを持ち上げたくなる気持ちは分かるし、自分もその引力の中にいます。ただ、消えたことと良かったことを混ぜた瞬間に、記録が信仰になります。旧チャーチは確かに素晴らしい。でも旧〜も同様に素晴らしいと、フラットな目線で見なければなりません。
この記事で Gatto や Bonora を上に置いているのは、消えたからではありません。靴そのものがどうやって作られているか、という一点で見た結果です。基準を先に出しておけば、その判断は検証できる。「昔は良かった」で終わらせないために、4つの軸を先に書きました。
中間が薄いことについて
今更ですが「いい感じ」が3本しかありません。ただ、今回は全般的に自分で気に入って買ったものをクオリティを軸に比較しているので、必然的に薄くなるのは致し方ないかと思います。また、クオリティ度外視の単純に好きな靴ランキングだと全く違う結果になります。なお今後靴が増えるにつれて、自ずと変動していくこともあるかと思います。
ブランド一覧(参考データ)
| ブランド | 段 | 国 | 創業 | 製法 |
|---|---|---|---|---|
| Silvano Lattanzi | 神! | 伊 | 1971 | ハンドソーンウェルテッド/ビスポーク |
| Gatto | 神! | 伊 | 1912 | ハンドウェルテッド/ビスポーク |
| Bonora | 神! | 伊 | 1878 とされる | 諸説あり |
| Mannina Firenze | 神! | 伊 | 1953 | マッケイ/グッドイヤー |
| Edward Green | 神! | 英 | 1890 | グッドイヤーウェルト |
| Tanino Crisci | 素晴らしい! | 伊 | 1919 | — |
| Enzo Bonafè | 素晴らしい! | 伊 | 1963 | マッケイ/ハンドソーン/ノルヴェジェーゼ |
| John Lobb Paris | 素晴らしい! | 英 | 1849 起点 | グッドイヤーウェルト |
| Crockett & Jones | 素晴らしい! | 英 | 1879 | グッドイヤーウェルト(Hand Grade あり) |
| Church’s|旧 | 素晴らしい! | 英 | 1873 | グッドイヤーウェルト |
| Sutor Mantellassi | 素晴らしい! | 伊 | 1912 | — |
| Allen Edmonds | いい感じ | 米 | 1922 | 360°グッドイヤーベンチウェルト |
| Bruno Magli | いい感じ | 伊 | 1936 | — |
| Arfango | いい感じ | 伊 | 1902 | — |
| Church’s|現行 | いいけど他を手に取る | 英 | 1873 | グッドイヤーウェルト |
| Tricker’s | いいけど他を手に取る | 英 | 1829 | グッドイヤー+ストームウェルト |
| Grenson | いいけど他を手に取る | 英 | 1866 | グッドイヤーウェルト(Triple Welt) |
| John Spencer | いいけど他を手に取る | 英 | — | 英国期はグッドイヤー |
| Silvano Mazza | いいけど他を手に取る | 伊 | — | — |
| Ferrante | いいけど他を手に取る | 伊 | 1918/1948 | マッケイ主/グッドイヤー・セメントも |
| REGAL | 革靴入門にピッタリ | 日 | 1902 | グッドイヤーウェルト/セミマッケイ |
| 鞆ゑ | 革靴入門にピッタリ | 日 | 1948 | グッドイヤー/マッケイ |
| Bostonian | 革靴入門にピッタリ | 米 | 1899 | グッドイヤーウェルト |
| Cole Haan | 革靴入門にピッタリ | 米 | 1928 | ウェルト製法ではない |
| Clarks | 革靴入門にピッタリ | 英 | 1825 | クレープソール中心 |
| GUCCI | 特殊枠 | 伊 | 1921 | チュブラー |
「—」は確かな出典が見つからなかったもので、無いという意味ではありません。
順番は上の格付け表と同じにしてあります。国と段を並べて見ると、同じノーザンプトンの作り手が三つの段に散り、イタリアのブランドは全ての段にいることが分かると思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?あくまで個人的な意見ですが、皆様の革靴ライフの参考に少しでもなれば幸いです。また、この記事は所有する靴が増えたら都度更新していきます。最終更新日と、段を動かした場合はその理由も、以下に残していきます。もし興味がある方はぜひブックマークしてください!



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