ローマの威厳を纏う靴 Gatto Roma フルブローグシューズ

皆様こんにちは。革靴は英国靴、フランス靴、イタリア靴と、国ごとに語られることが多いものです。しかし、イタリアで古い服や靴を見ていると、同じ国内であっても、街によって目指している姿が随分違うように思います。

例えば、ローマの服で僕が真っ先に思い浮かべるのがBrioniです。ナポリ仕立てのような軽快さとは少し違い、輪郭が明確で、身につける人を堂々と見せる。そこには、単なる美しさだけではない独特の威厳があります。

そして、同じような雰囲気は革靴にも存在します。今回紹介するのは、ローマを代表するビスポーク靴工房“Gatto Roma”による、ブラウンのグレインレザーを使用した内羽根式のフルブローグシューズです。

Gatto Roma Full Brogue Shoes

Gatto Roma Full Brogue Shoes

Gattoは1912年、ローマで創業したビスポーク靴工房です。創業者のAngelo Gattoはシチリア島のノート出身で、父親は靴職人、母親は仕立て屋でした。15歳で靴職人として徒弟入りしたのち、英国やフランスでも靴作りを学んだと伝えられています。

1934年にはイタリア王室御用達となり、サヴォイア家やエジプト王ファルーク、ギリシャ王コンスタンティノス2世をはじめ、ジャンニ・アニェッリ、アラン・ドロン、タイロン・パワーなど、多くの著名人の靴を手掛けました。

2006年にはSilvano Lattanziによって買収されています。当時の報道によると、工房の年間生産数は約350足。マーロン・ブランドやグレゴリー・ペック、オナシス、ボブ・ケネディらの名前が記された木型を、約1,200組保管していたといいます。

Gattoはビスポークで知られる工房ですが、買収後のGattoを既製靴として紹介する販売記録も見つかります。なので、名前だけでこの一足もビスポークだとは言い切れません。今回の靴については、製造時期や注文時の記録までは分からないため、そのあたりは不明としておきます。

英国的な意匠を持つイタリア靴

今回紹介するのは、ブラウンのグレインレザーを使用した内羽根式のフルブローグシューズです。フルブローグといえば、爪先から翼状に切り替えられたウイングチップと、靴全体に施された穴飾りを特徴とする形です。特に茶色のグレインレザーとの組み合わせは、英国のカントリーシューズを思わせます。

表面に細かな凹凸を持つグレインレザーには、スムースレザーとは違った力強さがあります。傷や擦れが目立ちにくいという実用性もあり、もともとフルブローグが持っているカントリー色をさらに強める素材です。

一方、この靴は外羽根式ではなく内羽根式です。カジュアルな素材と装飾を使いながら、靴の基本構造は端正にまとめられている。この少し相反する要素の組み合わせが、単なる無骨な靴では終わらない理由だと思います。

英国靴のような堅牢さを感じさせながら、全体の雰囲気にはどこかイタリアらしい華やかさがある。まさに英国とイタリアの中間に位置するような一足です。

ローマらしい力強さ

Gatto Roma Full Brogue Shoes シルエットの様子

この靴から最も強く感じるのは、やはりローマらしい威厳です。英国のカントリーシューズが、雨や泥にも耐えるための実用性から力強い姿になったとすれば、Gattoの靴が持つ力強さはもう少し装飾的です。丈夫そうというだけではなく、足元そのものを堂々と見せるための存在感があります。

その雰囲気は、同じローマで生まれたBrioniの服にも通じるように思います。

Brioniのジャケットも、ただ身体に沿わせて軽く作られた服ではありません。肩や胸に明確な輪郭を与え、着る人の存在を実際以上に大きく見せる。Gattoの靴にもまた、足を小さく繊細に見せるのではなく、履く人を力強く見せるような造形があります。

もちろん、同じ街で生まれたという理由だけで、両者を直接結びつけることはできません。それでも、華やかでありながら軽薄にはならず、身につける人に威厳を与えるという点には、共通するローマの美意識を感じます。

王道にして原点 ブリオーニが体現するクラシックの美学とは

ビスポーク靴を中古で履く難しさ

古い靴を中古で買う時、やはり難しいのがサイズです。Gattoのようにビスポークで知られる工房でも、名前だけで、その一足がどんな足に向けて作られたのかまでは分かりません。

仮に元の注文主に合わせたビスポークなら、自分とは足の形が違う可能性があります。既製靴だったとしても、木型やサイズ感が分からなければ、表記だけで判断するのは難しい。作りが良いことと、自分の足に合うことは、別の話なんですよね。

革靴の格付け記事でもGattoのフィッティングの難しさに触れました。ただ、今回調べ直してみると、Gatto名義の靴を一律にビスポークと考えるのは早計でした。その一足の履き心地と、工房全体の評価は、分けて考えたいと思います。

この靴についても、まずは実際に履いた時の感覚と、目の前にある作りを見ていきたい。来歴には分からない部分が残りますが、この独特の迫力は、手元で眺めているだけでも十分伝わってきます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。英国のカントリーシューズを思わせるブラウンのグレインレザーとフルブローグ。それを内羽根式の端正な構造に収め、ローマらしい力強さと威厳を与えたGattoの一足です。

古い靴には、製造時期や注文時の事情が分からないものもあります。それでも、現存する靴を実際に見て、履いて、その特徴を記録しておく意味はあると思います。 

当ブログでは今後も、Gattoのような歴史ある工房の靴や、個人的に面白いと感じた新旧の革靴を紹介していきますので、お楽しみいただけますと幸いです。

干梅 太郎

イタリア在住のピアニスト。クラシック音楽と、イタリアの古い服について書いています。
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